紡いできた思い 後世に 新上五島 巡礼ガイド大崎さん、熱く

 国際記念物遺跡会議(イコモス)が「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎、熊本の12資産)の世界文化遺産登録を勧告し、関係者は喜びや安堵(あんど)の表情を見せている。生まれ故郷の新上五島町で9年前から巡礼ガイドを続けている大崎五月さん(41)=同町奈良尾郷=もその一人だ。「古里の歴史を後世につなぎたい」と思いを新たにしている。
 旧若松町の生まれ。両親は共に潜伏キリシタンの子孫。周囲はカトリック信徒ばかりで、自身も生後すぐに洗礼を受けた。長崎市内の短大を卒業後、県内で保育士として働き、2008年に帰郷。翌年、NPO法人、長崎巡礼センターのガイドとなり、年間約800人を「頭ケ島の集落」(新上五島町)をはじめ、五島列島の構成資産に案内している。
 10年に同町出身の一(はじめ)さん(44)と結婚し、男児を授かった。仏教徒の夫と暮らすようになって初詣や七五三など他宗教の行事も経験し、視野が広がった。ガイドの時には「キリシタンの受難のことばかりにならないように」と心掛けている。
 幕末維新期の五島列島では「五島崩れ」と呼ばれる激しいキリシタン弾圧が起きた。来訪者を案内する際には「知人を取り締まらねばならなかった役人側にも心の痛みがあった」と解説。「誰もが苦しんだ時代を乗り越えたからこそ、現代には信仰の自由があり、宗教が異なる人々が仲良くできる」と語りかける。
 江戸後期以降、五島列島には長崎・外海地区から数千人の潜伏キリシタンが移住したといわれ、津々浦々に約70の教会がある。「世界遺産になれば構成資産の教会にだけスポットが当たってしまうのではないか」と心配する。胸の内には「五島の人々が紡いできた思いをたくさんの人に知ってほしい」という熱い思いがある。
 島育ちだが、実は船が苦手。船で島々を渡り歩くガイドの時は苦労する。「先祖たちは信仰を守るために船に乗って五島に移住した。その苦労を思えば」と自分を奮い立たせ、信仰の歴史を来訪者に伝えている。

頭ケ島天主堂で観光客を案内する大崎さん(右)=新上五島町友住郷

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