障がい者支える「介助犬」、共に生きることで広がる世界

「補助犬」は、細かく分けて「盲導犬」「聴導犬」「介助犬」の3種類があります。「盲導犬」は視覚障がい者を、「聴導犬」は聴覚障がい者の生活をサポートする犬です。もう一つ、「介助犬」は、手足が不自由な人、主に車椅子生活者の日常生活をサポートしており、現在、全国で75頭が活躍しています。介助犬について、介助犬を育成する団体に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

オーダーメイドでユーザーをサポート

ユーザーに電話機を渡す介助犬

「社会福祉法人日本介助犬協会」(神奈川)は、介助犬育成の先駆けとして、日本国内でこれまで多くの介助犬を育ててきました。

介助犬って何?どんなことをしていて、どんな風に役立っているの?…素朴な疑問を、広報部の児玉直子(こだま・なおこ)さん(54)と、同じく広報部の後藤優花(ごとう・ゆか)さん(25)に伺いました。

日本介助犬協会広報部の児玉さん(右)と後藤さん(左)

「ユーザーさんの手足となって、たとえば落ちたものを拾ったり、冷蔵庫を開けて飲み物をとったり、ドアを開けたり、靴下を脱がせたり…、日常生活の様々シーンで必要なサポートをしている。視覚障がい者のための盲導犬や聴覚障がい者のための聴導犬と異なり、介助犬は利用者の幅が広いため対象者を限定しづらく、イメージしづらいところがあるかもしれない」(後藤さん)

溝にはめられている金属の格子状の蓋に車椅子の前輪を取られたり、段差で車椅子が進めなくなったりした時、介助犬とユーザーは力を合わせてそれを乗り越える

「同じ車椅子ユーザーでも、ユーザーによって、体の状態は違う。補助があれば歩けるけれどふだんは車椅子を使っているという人もいれば、麻痺などによって全く歩けない方もいる。その人に合ったものでなければ意味がないので、介助犬は、利用者それぞれの体の症状や生活のニーズにあわせて、完全にオーダーメイドでトレーニングを行い、一人ひとりの生活を支えている」(児玉さん)

■ドアの開け閉めから、起き上がりの介助まで

起き上がりの介助は、左右どちらから起こすとユーザーの身体に負担がかからないのかをリハビリテーション医師や理学療法士など医療専門職とも話し合い、細心の注意を払いながら訓練を進める

具体的には、どんなオーダーメイドのサポートを行っているのでしょうか。

「例えば一人暮らしをしているユーザーさんであれば、玄関のドアの鍵の開け閉めや、届かない場所にある電気の点灯ボタンをつけたりといったことから、手足が不自由なため寝ている間に自分で自由に体温調節ができないユーザーさんのために、布団をはぐのを介助犬が手伝ったりもしている。また、自力で起き上がることが難しい方のために、起き上がりの介助をしている犬もいる」と後藤さん。

利用者の体の症状によってそれぞれ介助の方法は異なるものの、起き上がるタイミングで頭を体の下にすべり込ませ、反動で起き上がるのを助けたりしているのだといいます。

■介助犬のサポートが、利用者にも前向きな気持ちを生む

街中を歩調を合わせて歩く介助犬ユーザーと介助犬

起き上がりの介助を受けるようになったある利用者の方のエピソードを教えてくれました。

「体に重度の障がいがあり、普段は電動車椅子に乗っている利用者の方がいる。彼女は、毎朝自力で起き上がるのに1時間かかってしまい、起き上がること自体がおっくうになっていた」

「やっと起き上がったとしても、疲れきって外出する気にもなれない。次第に家にこもりがちになってしまった。しかし介助犬が起き上がりのサポートをするようになってから、たった5分で起き上がれるようになった」

「起き上がることだけでなく外出へのハードルが低くなり、生きることに前向きになれたと喜ばれている。最初は『家から5分のコンビニに行けるようになりたい』といっていたのが、今では新幹線に乗って旅行へ出かけたり、すごくアクティブに活動されたりしている」(後藤さん)

「手足が不自由な方の中には、外出したいと思っても『カバンや荷物を落とした時に誰も拾ってくれないから、一人では怖くて出かけられない』という悩みを抱えている方も多い。介助犬と一緒であれば、荷物を落としても、すぐに拾ってくれる安心感があるので、外出へのハードルが低くなる」(児玉さん)

■40日以上の訓練を経て、晴れてパートナーに

日本介助犬協会は、愛知県長久手にある介助犬総合訓練センター「シンシアの丘」で介助犬を育成しています。一人前の介助犬になるには、1年から1年半の期間が必要だといいます。

一通りの基礎訓練・介助動作訓練を受けた後、希望者とのマッチングを行います。ここで利用者が決まると、次はその利用者の体の症状や生活、本人の希望などにあわせた訓練を、介助犬と利用者、トレーナーが一緒になって40日以上かけて積みます。

その後、最終的に国の認定試験を受け、合格したペアが認定証を受け取り、晴れて社会に出て一緒の生活を送れるようになります。

現在、日本全国で活躍する介助犬は75頭(2018年4月現在)。「補助犬自体、まだまだ認知が進んでいないが、介助犬は補助犬の中でも特に認知度が低く、理解を得づらいことも多い」と児玉さん。

「日本には、潜在的に介助犬を必要としている人が15,000人いると言われている。介助犬を持つことで、劇的に変化したユーザーさんを私たちはこれまでたくさん見てきた。認知が増え、介助犬と生きる選択をすることで、今以上に前向きな生活を送ることができるようになる方も増えるのではないか」と話します。

■補助犬が当たり前に受け入れられる社会を目指して

もし街中で介助犬を見かけたら、どんなことに気をつけたら良いかを問うと、お二人から次のような答えが返ってきました。

「介助犬は、アイコンタクトで仕事を教えている。盲導犬や聴導犬と同じように、触ったり、目を合わせたりといった犬の注意をひくことは避けて、やさしく見守ってもらえたら。ただ、『働く犬たちは何でもできる』という誤解があるのも事実。もし補助犬ユーザーが近くにいて困っている様子だったら、困っていることはないか、手伝えることはないか、一言声をかけてほしい」

「ある利用者の方は、体が不自由になってから、家族にずっと遠慮ばかりしていた。しかし、偶然介助犬の存在を知り、一緒に生活を初めてみると、介助犬が自分のありのままを受け入れ、身の回りのことを手伝ってくれて、少しずつ昔の自分を取り戻していったそう。ある時、その方が『空ってこんなに青かったんだ!』と言うのを聞いて、介助犬が彼女の人生の役に立てたんだ、と嬉しかった。介助犬に限らず、街中に補助犬がもっと入っていける社会を目指し、啓発活動に力を入れていきたい」

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