東京メトロに「地上を歩く乗換駅」

ダイヤ改正前(上)から改正後(下)のように乗換駅が増えた東京メトロの路線図

 皆さんは東京の地下鉄をサクッと乗りこなせる「地下鉄名人」でしょうか? 東京都内には東京メトロの9路線と都営地下鉄の4路線の地下鉄が走っており、これらが縦、横、斜めに迷路のように入り組んでいる。気軽に乗れる「現代版ゲタ電」で、うまく乗りこなせばとても便利だ。実は上級者向けの鉄道という一面もある。

 1本の路線だけでは移動できず別の路線に乗り換える必要がある場合、路線図をチラッと見るだけでは、出発地から目的地までの最短コースを見極めるのが難しい。

 というのも、乗り換えにかなりの時間を要する駅、つまり不便な駅があり、初めて利用すると迷うことがある。不便な要因は、双方の改札口が離れているとか、駅の混雑がひどいとか、案内看板が途中で途切れてしまっているとか、様々なパターンがある。

 例えば、東京メトロ銀座線・丸ノ内線の赤坂見附駅から南北線の永田町駅までの乗り換えは、そこそこの距離を歩いた揚げ句、半蔵門線のホームの端から端まで通して歩き、さらに長いエスカレーターを上って、再び結構な距離を歩くことになる。体感としては1~2駅を歩く気分で、所要時間は約10分。混雑時にはもっと時間がかかる。

 また、都営地下鉄浅草線と大江戸線の蔵前駅は、同じ都営同士にもかかわらず、地上の道路を約200メートル歩く上に、地上に出たら案内看板が消えるし、なおかつ交差点を曲がらなければならない。

 筆者はルートを頭にたたき込まず、漫然と看板に書かれた矢印の方向に歩いて行ったら迷ってしまった。ほかにも、巨大ターミナルの渋谷駅、5路線が集中する大手町駅などは、初めての利用者が戸惑いそうだ。

 こうした「乗り換え困難駅」とは対照的に、近くて便利なのに正式な乗換駅ではない組み合わせもある。もちろん改札口を出て乗り換えるのは自由だが、運賃の通算や乗り換え割引が適用されないため、いったん精算してから、もう一度運賃を払い直して乗ることになる。

 よほど急ぎでなければ乗換駅として利用するメリットは無かった。代表的だったのは、東京メトロ日比谷線の築地駅と有楽町線の新富町駅の組み合わせ、日比谷線・浅草線の人形町駅と半蔵門線の水天宮前駅の組み合わせだ。

 「代表的だった」と過去形にしたのは、この2組が今春のダイヤ改正で乗換駅に設定されたからだ。どちらの組み合わせも、地上の道路を約150メートル歩くことになり、途中に交差点がある。だが、長さ20メートルの電車の8両分に満たない距離だし、直線なので分かりやすい。かなり前から乗り換えの「ウラ技」として知られる存在だった。

 正式は乗換駅への「昇格」は、地下鉄利用者の立場からするとうれしい。特に人形町駅と水天宮前駅の組み合わせは、日比谷線と半蔵門線が他路線を経由することなく乗り換えできるようになったという点で意義深い。

東京メトロ水天宮前駅から歩道を進んで交差点の向こうに見えてくる人形町駅の出入口(左)と水天宮前駅に掲げられたポスター

 ここで乗り換える乗客の数だけ、どこかの駅での乗り換え混雑が緩和される効果もある。鉄道趣味の視点では「東京メトロにも、都営地下鉄の蔵前駅のように地上の道路を歩く乗換駅が誕生した」ということになる。

 この2組以外にも、正式な乗換駅ではないのに、乗り換えに便利な駅は存在する。そういう駅をどんどん乗換駅に設定してくれれば、東京の地下鉄はますます便利になるだろう。期待しています!

 ☆寺尾敦史(てらお・あつし)共同通信社映像音声部

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