【トップインタビュー 神鋼建材工業・工藤寛社長】「値上げ浸透を第一に」 上期と下期の繁閑差「少しでも縮小」

――2期連続で赤字だったが、18年3月期は黒字回復が達成できたのか。

 「まだ確定していないが、経常段階で3期ぶりに黒字となる見込み。前年度は公共事業の予算が13%増えたので、売上高も14~15%増加した」

――売上高増の中身は。

 「公共事業の予算は増えたが、災害復旧・防止に多く割り振られ、当社が主力とする道路関係の本予算自体は一昨年度と変わらなかった。ただ16年度の補正予算が17年度にずれ込み、地方自治体の一般道路向けの受注が増えた。そのため17年4~9月期の売上高は前年同期比3割強増と大幅に伸びた。暫定二車線用ワイヤーロープLD種が新たな需要として出てきた。東北の震災復興は、全体ではピークを超えたが、道路関係は本格化した。また防音壁は、国内の更新需要が活況で、前期比で30%以上売上が増え、過去最高となった。ただ昨年10月に親会社の神戸製鋼所のデータ不適切事案が発覚した後は、品質問題の説明もあって、年度末の需要期に向けた営業活動が十分できなかった。そのため今年1~3月の売上高は、前年同期を下回った」

神鋼建材工業・工藤社長

――神戸製鋼所のデータ改ざんの影響はどれほどあったのか。

 「推定だが、数億円程度は売上減につながったのではないかと思う。他社への転注に加え、品質問題の説明で営業活動が十分行えなかったこと、値上げ交渉も不十分になってしまったことが影響した」

――その値上げだが、どの程度進展したのか。

 「16年度下期から7~10%の値上げをお願いしてきたが、実行できたのは、その半分ぐらいだ。ただ鋼材価格は上がり続けており、運賃や副資材価格も上昇しているので、4月の見積もりからは現行価格比8~10%の値上げを実施すべく、お客さんに理解を求めている」

――3期ぶりの黒字となりそうだが、その要因は。

 「まず売上高増が一番大きい要因だが、コスト削減も大きかった。特に製造部門では計画の60%超過でコストが削減できた。外注加工を内製化し、メンテナンスや検査も法定点検以外は自社で実施するようにした。目に見えてコストが下がり、技能伝承にもつながった」

――今期の見通しは。

 「売上高は前期の微増、利益面では、まず黒字を定着させ、できれば増益を目指したい。公共事業の予算は17年度比で7%減るが、道路関係の予算は17年度補正も含め5%増える見込みだ。暫定二車線用のワイヤーロープは、これまで高速道路だけだったが、今年度からは一般道でも採用されそう。防音壁の更新や東北の復興道路は今年度も好調に推移するだろう。また豪雨などの自然災害対策は前期と同じ程度の需要がありそうだ」「営業面では、値上げの浸透を図るのが第一だ。コストアップは当社にとって大問題で、これを製品価格に上乗せできるかどうかが、今期の業績を左右するので、重点的に取り組んでいきたい」

――新たな需要分野としては。

 「4月にジャカルタの都市高速鉄道(MRT)にアルミ箔を使用したエコキューオンを受注した。ODA以外で当社の独自製品が採用されたのは初めてのケースだ。インドネシアだけでなく、シンガポールやタイなどでの需要の広がりが期待できる。防災製品は、これまで土砂対策中心だったが、道路際の大きな落石に対応した新商品を現在開発している」

――営業以外の重点課題は。

 「製造部門の生産性を上げていきたい。当社は公共事業向けが大半を占めるので生産が下期型になっており、上期と下期の繁閑の差が大きい。これを少しでも解消するため上期に汎用品を先行生産する。また日々のメンテナンスをしっかりとし、設備の稼働率を上げていく。こういった対策により2交替の生産体制を12~3月の4カ月間と前期よりも3カ月間短縮させる」

 「また会社の方向性を社員全員が共有できるよう社員教育にも力を入れていく。これまでも階層別教育はやっていたが、今期からは部長や支店長クラスにコーチングやマネジメントの教育をしていく」(橋川 渉)

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