『モリのいる場所』 事件は起きないが飽きさせない。熊谷守一夫妻のある一日

(C)2017「モリのいる場所」製作委員会

 日本のコメディー映画のエース・沖田修一の新作だ。代表作『キツツキと雨』の撮影中に山☆(崎の大が立の下の横棒なし)努が、“モリ”こと画家の熊谷守一を「僕のアイドル」と語ったこと(ロケ地と記念館が近かったため)が企画の出発点で、山☆(崎の大が立の下の横棒なし)が94歳のモリを、樹木希林が76歳のその妻・秀子を演じている。

 舞台は、昭和49年の夏の一日。30年間ほとんど外出したことのないモリと、彼に寄り添う秀子の日常が描かれるが、熊谷家を訪ねてくる(あるいは、入り浸る)クセの強い客人たちとの群像劇の妙味もあって、ユーモアとペーソスにあふれ、オフビート感漂う沖田テイストは全開。事件といえば、隣に高層マンションが建つ日照問題くらいなのに、最後まで片時も飽きさせない。

 さらには、緑豊かな熊谷家の庭も、もう一人の主人公と言いたくなるほど魅力的で、モリが30年間飽きずに眺め、植物や虫、訪れる猫や鳥たちをモデルにし続けたことに、さもありなんと納得してしまう。しかも沖田監督は、モリが絵を描く姿を一度も映さないのだ。その禁欲的な、言い換えれば自我からも欲望からも解き放たかれたかのような姿勢は、モリそのもの。これはストーリーやセリフに一切頼らず、世界観によって主人公を描き切ってしまった映画のひとつの理想形。沖田監督にとっても、到達点と言っていいだろう。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:沖田修一

出演:山☆(崎の大が立の下の横棒なし)努、樹木希林

5月19日(土)から全国公開

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