119番要請を無視した仏の受付女性、患者死ぬも「後悔しない」

By 太田清

ナオミ・ムセンガさん。事件後に立ちあがったフェイスブックのページ「ナオミに正義を」から

 フランス北東部ストラスブールで昨年12月、22歳のナオミ・ムセンガさん(女性)が激しい腹痛を訴え、日本の119番に当たる救急医療サービスに電話したところ、受け付けの女性から「だれでもいつか死ぬ。あなたもいつかは絶対に死ぬわ」とからかわれた上、救急車の出動を拒否されその後、多臓器不全で死亡した。事件は最近になり遺族が入手した通話記録が公開されたことから欧米メディアが相次いで報じ、受付女性への批判が殺到したが、当の女性は職場の人員不足による過労労働が原因として謝罪しない考えを示した。英BBC放送などが伝えた。 

 受付女性は「具合が悪い。死にそうです」とのムセンガさんの電話を受けながらも、「詳しく病状を説明しないなら電話を切るわ」と救急車派遣を拒否し、医師を呼ぶ緊急往診サービスに電話するよう指示して電話を切った。ムセンガさんは同サービスに連絡したものの5時間待たされ、その後収容先の病院で死亡した。 

 名前を出さないことを条件にフランスメディアの取材に応じた受付女性は、「いつもプレッシャーにさらされていた。電話の机から立つこともできないほどの仕事がある。話が終わって電話を切ったと思ったら、すぐ次の電話がある」と主張。からかったことを後悔しているかと聞かれると「こういう状況の下では(後悔というのは)ふさわしくない」と答えた。 

 女性の弁護士は、女性が一日中多数の電話で応対に当たるなど過重労働にあったとした上で、「電話を受けたとき、最初に考えたのは絶対的な緊急性はなく、総合診療医に行くべき案件だということだった」と語った。 

 女性は2週間の休暇から職場に戻ったばかりで午前7時半から当直に入り、ムセンガさんの電話を受けたのは午前11時半だった。女性は救急医療サービスで4年間、救急車の業務で20年間の勤務実績があったが、現在は停職中。処罰を求める多数の請願を受け、当局が「職務怠慢」の疑いで調査を始めた。 

 ムセンガさんは子供を持つ母親。姉のルワンジュさんは「ナオミは人間として助けを受け、治療を受ける権利があった。二度とこんなことが起こってほしくない」と訴えた。

 一方で、受付女性を擁護する声もある。フランスの緊急医団体によると、救急車の出動件数は1988年の800万件から現在は2100万件に増加し、緊急要請の電話も3倍に増えた。団体の代表は「ストレスを受け、疲れ果て、患者の苦痛に無関心な人もいる」と語った。また、多くの要請は緊急性がなく、話し相手がほしいだけの人がかけてくる電話もあるとの指摘もある。 (共同通信=太田清)

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