【現場を歩く】〈鉛加工の「ヨシザワLA・本社工場」〉鉛の有用性生かし社会貢献 製造業や医療向けなど用途開発に挑戦

 鉛は自然銅や自然金に続き、最も古くから人類が利用してきた金属の一つ。金や白金、タンタルなど貴金属・希少金属を除くと最も密度が高く、遮音性や放射線遮蔽性に優れる。耐食性や加工性、コスト性、リサイクル性にも優れ、現在では鉛蓄電池をはじめ、放射線の遮蔽材、建築物の免振装置、遮音材などで幅広く用いられている。鉛の有用性を引き出し、社会に安心・安全を届けたい―。そんな思いで用途開発に挑み続ける鉛加工メーカー、ヨシザワLAの本社工場(千葉県柏市)を訪れた。(相楽 孝一)

放射線遮蔽材で活躍

 実用金属として最も優れた放射線遮蔽材料として知られる鉛は、原子力関連施設をはじめ大学や研究所、病院などで作業者や周囲の人々の健康を守るという重要な役割を担う。代表的なのは、建物の壁材などに用いられている鉛複合板。鉛板と石膏ボードやベニヤなどの板を張り合わせたもので、場所に応じて鉛の厚さを変更すれば二重張りの必要がなく、材料密度が高いため、運搬・保管スペースが少なく、施工しやすいというメリットがある。鉛は放射線の遮蔽性に優れるだけでなく、放射線で放射化されないという点もこの用途での大きな利点だ。

 X線検査装置や電子線照射装置など放射線装置の遮蔽体としても鉛は欠かせない。最近では特に電子顕微鏡など研究装置や、X線―CTなど医療装置、食品の異物検査や電子部品の信頼性評価、手荷物検査などで使われる非破壊検査装置などの用途で需要が伸びている。鉛とは直接イメージしにくいところでも縁の下の力持ちとして日本の製造業を支え、豊かな社会づくりに貢献している。

 このほか、福島第一原発の廃炉作業では鉛板を用いた遮蔽マットや遮蔽カーテン、汚染水処理のセシウム吸着装置に使用する遮蔽材などで作業者を防護し、福島の復興再生に一役買っている。

防災・減災でも貢献

 防災性向上などに資する道路の無電柱化では、地中に埋めるケーブルの接続部に用いる被覆管としてコスト性・加工性に優れる鉛が採用されている。無電柱化は災害発生時に電柱の倒壊による直接被害や、緊急車両が通れないなどの二次被害も防げる。こうしたことから今後も都市を中心に無電柱化の動きは加速していくものとみられ、鉛被覆管の需要拡大が期待されている。

 また、防災・減災用途では地震が発生した際にビルなどの揺れを減衰させる鉛ダンパー、高速道路などの免振装置に使われる鉛プラグといった製品もある。鉛は柔らかい金属のため、地震の横揺れのエネルギーを塑性変形(熱エネルギーに転換)することで上手く吸収できる。1メートル程度なら横にずれても鉛が再結晶化されるため、元の状態に戻るのだという。高度な技術が必要な鉛ダンパーの製造を手掛けているのは国内では同社のみだ。

鉛製品の製造現場

高度な加工技術でニーズに対応

 ヨシザワLAでは、こうした放射線遮蔽材料、無電柱化向けの鉛被覆管、建築物の免振材、遮音材以外にも硫酸タンクなどでの耐食材、銅電解工程で用いる電極材、クロムめっき用電極材など多種多様な鉛製品を製造している。創業から100年以上にわたって蓄積してきた技術と鉛の優れた特性を組み合わせ、社会のニーズに対応したユニークな製品開発に継続的に取り組んでいるのも同社の特徴。最近では核医学のRI画像診断装置の検出器部分に使用される高精度の鉛コリメータを開発し、千葉県内の中小企業が開発・製造する優れた工業製品としての認定も受けた。同製品は非常に細かい角孔が数千個から数万個空いたブロック状の鉛でできており、製造には非常に高度な技術が求められる。

 実際に鉛製品を加工する工場を見せてもらった。メーンの圧延工場を進むと大型圧延機と大きな鉛のスラブが目に入ってくる。板幅2300ミリまで圧延可能な国内最大級の圧延機と板幅1000ミリの小型圧延機を保有しているのが同社の強み。大型圧延機ではインゴットを溶解・鋳造した重量2トンのスラブを複数回圧延し、圧延機の延長上にある切断機で必要なサイズにカットする。また、圧延された鉛板はスリッターで用途に応じた幅サイズに切り分けられる。

 鉛管は、鉛管機で押出加工によって製造される。パイプ状のほか、菊型にも鋳造でき、金型によって様々な形に加工できる。現在、大口径鉛管の押出成形ができる会社は国内に2社しか残っていないという。鉛の被覆管も鉛パイプの絞り加工によって製造される。現在出荷が伸びている被覆管がずらりと並べられた光景は壮観だ。

 加工工場では電子顕微鏡の筐体などの部品加工や、硫酸タンクや銅箔工場の電解槽など各種プラント構造材への鉛のライニング作業なども見学させてもらった。電子顕微鏡に使われる部品は、作業者が一つ一つ丁寧に研磨して見事な鏡面仕上げを施す。筐体部品の外表面に鉛を張り合わせ、仕上げ加工を行う様子も見ることができた。

 大型のプラント構造材と鉛の溶接も手作業で行う。こうした溶接作業は鉛ライニング、鉛ホモゲンと呼ばれる技術が用いられ、長年のノウハウが生かされている。特に鉄と鉛の溶接は「温度が高すぎても低すぎても上手く溶接できない」という職人芸の世界だ。

人材確保・育成が課題

 鉛加工業界でも人材の確保・育成は喫緊の課題だ。「鉛工職人」と呼ばれる熟練技術者の数は全国的に減少が続き、数年前に100人程度いた職人が現在では80人ほどになっているという。全国鉛管鉛板工業協同組合の理事長も務める佐久本明社長は「組合の加盟社も以前は15社ぐらいあったが、現在は5社まで減ってしまった。日本鉱業協会の鉛亜鉛需要開発センターの力も借りながら鉛職人の技能を着実に伝承していきたい」と話す。

 同社では独自の資格制度を導入し、こうした職人の人材育成にも積極的に取り組んでいる。最近では福島の廃炉作業に使われる大型の遮蔽容器を作る機会も得られた。「重量20トンクラスの大型遮蔽容器を作るのは久しぶりで、その技術を知る人間も社内に3人しか残っていなかった。不安もあったが、上手くいって技術を継承することもできた。この実績と経験を生かし、今後も大物にチャレンジしていきたい」と力を込める。

 「鉛は単純だが、奥が深い。私もこの仕事を通じてものづくりの楽しさを教わった。その現場経験から人脈が広がり、新しい需要開拓にもつながっている」とこの仕事の魅力を語る。「鉛製品は放射線遮蔽材や無電柱化の材料、建物の免振材など社会に貢献できる」という自負もある。今後もトップ営業を積極的に展開し、福島原発の廃炉に向けた取り組みや復興に貢献し、鉛製品の可能性を広げていく考えだ。

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