持続可能性を高め、トレード・オンへ

―新浪 剛史・サントリーホールディングス社長

©株式会社博展

「事業を成長させ、自然環境を守り、社会と共生していくことは『トレード・オフ』ではない。私たちは『トレード・オン』に変えていける」。サントリーホールディングスの新浪剛史社長は、「サステナブル・ブランド国際会議2018東京」でこう語った。サントリーは「やってみなはれ」「利益三分主義」の創業精神のもと、グローバルで水を軸にしたサステナビリティの取り組みを進める。基調講演「『Growing for Good』の実現に向けて」の内容を一部抜粋して紹介する。(オルタナ編集部)

当社が掲げるグループのビジョンは「Growing for Good」。本日のサステナブル・ブランド国際会議のテーマも「『グッド・ライフ』の再定義」です。私たちはお客さまの「グッド・ライフ」のために事業を行い、そしてグッド・カンパニーでありたい。こういう強い思いを約120年脈々と続けてきました。

この「Growing for Good」の土台は、2つの創業精神「やってみなはれ」「利益三分主義」にあります。創業者・鳥井信治郎が提唱したものです。

「やってみなはれ」は「信念をもってやりぬけ」という意味です。創業者の鳥井は大正後期に日本人に合うウイスキーを作ると、突然言い始めました。ウイスキーはできるまでに何年も寝かせている間、お金がずっと出ていくと言われましたが、「それでもやるんだ」と。黒字化するのに相当な時間がかかりました。

あきらめず、へこたれず、しつこく挑戦をしていく。その結果として「やってみなはれ」が実現する。長期に構え、始めたら徹底的にやりぬく。これが重要だと考えています。

2つ目の創業精神は「利益三分主義」です。これは事業で得た利益を再投資するだけではなく、自らの社員、お取引先や社会に還元すべきという考え方です。

企業は絶対に利益を上げなければいけません。そうでなくては競争に負けてしまいます。しかし社会が健全でなければ、私たちの企業も永続的になれません。健全な社会の発展を支えることが企業の役割なのです。

使用する水の2倍を涵養

1990年代に入ると、企業の環境への取り組みが注目されるようになりました。当社は「水と生きる」をコーポレートメッセージとして掲げています。

私たちの事業は、多くの水を使います。工場で使う水をなるべく少なくするのは当たり前のことです。そこで私たちは工場で使用する地下水を将来にわたり保全していくため、九州熊本工場を皮切りに、「天然水の森プロジェクト」を始めました。水源の森を整備し、コミュニティに貢献するという活動です。

私たちが使わせていただいている水の2倍を森で涵養しようという目標を立てました。このプロジェクトは14都府県、20カ所、9千㌶に広がりました。国や地方自治体からお借りして整備する森の契約は最低でも30年です。

2004年に始まった「水育」は、小学生の皆さんに地球上の水の大切さや、水をはぐくむ森のメカニズムを説明しています。参加した小学生の数は15万人に達しました。

サントリーはグローバル規模で「水と生きる」というコーポレートメッセージを具体化しようとしています。グループ内では、国内より海外の社員数の方が多くなりました。グローバル企業として、取り組む「グッド」とは何かという議論を、世界から幹部が集まり議論しています。

SDGs(持続可能な開発目標)においては、「水・衛生」「気候変動対策」「責任ある生産・消費」の領域に重点を置くと決めました。

経営トップが自ら参画

実は、天然水のプロジェクトの活動を始めた時は、多くの社員が「自分にはあまり関係はない」と思っていました。そこで、ある幹部が「全社員を挙げてやるべきだ」と提唱し、3年間かけて全社員が研修に参加しました。

私自身も参加し、「やって良かったな」「百聞は一見に如かず」と感じました。環境部門だけにやらせるのではなく、経営トップが自ら参画すべきと思いました。そうすることによって、社内全体で重要性を共有できるのです。

よく、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない状態のことを「トレード・オフ」と言いますが、サステナビリティのエキスパートであるピーターD・ピーダーセンさんが提唱するとおり、「サステナビリティ」と「経営」は「トレード・オン」であるべきです。

事業を成長させ、自然環境を守り、社会と共生していく『トレード・オン』に変えていけると強く実感しています。

新浪 剛史(にいなみ・たけし)

サントリーホールディングス代表取締役社長。1981年、三菱商事株式会社入社。2002年、ローソン代表取締役社長執行役員CEOに就任。2014年10月からサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。2016年、米国経済開発委員会Global Leadership Award受賞。ハーバード大学経営大学院MBA修了。