社会が応援する企業のサステナブル経営

サステナブル・ブランド国際会議初日の中でも注目を集めたセッション「社会が応援する企業のサステナブル経営とは」には、鎌倉投信の新井和宏取締役 資産運用部長、マザーハウスの山崎大祐副社長、リバースプロジェクトの龜石太夏匡代表取締役が登壇した。ファシリテーターを務めたのは近畿大学経営学部の廣田章光教授。立ち見が出るほどの熱気のなか、セッションは始まった。(オルタナ編集部=小松遥香)

ファシリテーターの廣田教授

廣田教授は、マーケティング1.0から4.0までの流れを簡単に紹介し、持続可能型のビジネスモデルが誕生する背景について話した。「マーケティング4.0の時代になり、顧客もマーケティングに参加し、企業・顧客がそれぞれの起点を持つようになった。マーケティングをデザインすることが求められている時代。社会課題の解決をしながら収益を上げるという持続可能型のビジネスモデルもこの流れの中で生まれてきた」。廣田教授自身も、大手スポーツブランドでマーケティングを担当していた経験を持つ。

鎌倉投信は、2008年に創業した投資信託委託会社。個人向けの投資信託の運用・販売を行い、現在の顧客数は1万8000人、純資産残高は340憶円。運用を行う会社は63社に上る。同社の投資信託名は「結い2101」。2101年、22世紀の投資をテーマに掲げ、「いい会社を増やしましょう」を合言葉に「いい会社」の株式に投資する。いい会社の定義については、同社のホームページを見て欲しい。

鎌倉投信の新井取締役

新井取締役は、社会に応援される同社のマーケティングについて触れた。「結い2101」の仕組み自体が、顧客と一緒に会社を変えていくことを目指すものであり、顧客と世界観や社会観を共有することで事業が成立することから、「創業以来、ホームページ以外の宣伝広告費を計上したことがなく、すべて口コミだ」と話した。年に一度開催する1000人が参加する受益者総会では、30人の顧客がボランティアスタッフとして手伝ってくれるそうだ。

マザーハウスは2006年、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念に創業したファッションブランド。バングラデッシュやネパール、インドネシア、スリランカでバッグやストール、ジュエリーをつくって販売する。現在、国内に27店舗、台湾に6店舗、香港に1店舗を構え、7カ国で400人のスタッフが働いている。鎌倉投信の投資先でもある。

マザーハウスの山﨑副社長

山崎副社長は、「ものづくりの向こう側には必ず人が携わっている。現代は、そういうことが見えない社会になっている。生産者に日本に来てもらったり、逆に現地に行くことで生産者とお客様が触れ合う機会をつくり、ストーリーをきちんと伝えることを大切にしている」と話した。

リバースプロジェクトは2009年に創業。龜石氏と俳優の伊勢谷友介氏が共同代表を務める。「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか」を理念に掲げ、アートやクリエイティブな視点で、社会課題を解決する事業を行う。これまでに、イトーキなどさまざまな企業と協働し、CSR活動のプロデュースやCSV視点での商品開発、その他に地域づくりなどを手掛けてきた。

リバースプロジェクトの龜石代表

龜石氏はかつて、伊勢谷氏と共に映画を製作していた。事業を始めたきっかけを「映画は過去の題材をテーマにつくったとしても、それは未来へのメッセージ。未来について語る時、どんな分野の脚本について話していても、社会課題に行きつくことに気づいた」と振り返った。

「鎌倉投信は何を基準に投資先を選定するか」と龜石氏が質問。新井氏は、「一つひとつの課題に本気で向き合っている会社さん。会社は個性。企業は人間と一緒。『それは違う』という人もいるが、会社というのは人間がつくっている。人間性は、会社でいうと個性や理念。その色が出ていないところには絶対に投資しない」と答えた。

山崎氏は、ゴールドマン・サックス証券出身。金融業出身者として、「鎌倉投信は何でこんなに面倒くさいことをやっているのかと思うことをやっている。普通は、お金を集めるために説明会をやる。でも、鎌倉投信は報告会に一番力をいれ、お金をかける。すべての投資先に出向いて、情報をお客様にオープンにしてくれと言ってくる。普通はやらないですよ」と語った。

社会は諦めの悪い人で成り立っている

最後に、パネリストの3人は社会課題の解決に取り組むために大切なことについて話した。

龜石氏は、「偉そうなことは言えないですが、自分の心の中に覚悟を決めること。自分にとって厳しい選択をしていく努力が大事。上手くいくことは約束されないけれど、エキサイティングな道が広がっていく。自分なりに本質ってなんだろうかということを絶えず自分に問うことです」と語った。

山崎氏は、「一番重要なことは何かというと、仲間なんです。みなさんには、やりたいことを口に出してもらいたい。口に出して仲間を集めていくということが大切」と話し、創業当初の12年前は今のように堂々とやりたいことを言えなかったと振り返った。

新井氏は、「ベンチャーに投資するときに決めていることがあります。それは諦めの悪い人に投資することです。世の中というのは、優秀な人で成り立っているわけではないんです。諦めの悪い人たちで成り立っているんです。その諦めの悪さが、長い期間できる、サステナブルなものをつくることができる。そういう風に思っています」と力強く語った。

そして、「もう一つ、こうやってお忙しいところ集まっていただいているみなさまにお願いしたいのは、行動していただきたいということです。社会は誰かが変えるものではないです。みんながこっちだと思った時に、社会は変わる。みなさんが動いて下さらなければ、社会は変わりません」と呼び掛けた。

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