地震でレストラン失い、パイ専門店で再スタート

接客するソウルキッチンパイのオーナー小場佐礼治さん(右)=熊本市西区

 経営するレストランを熊本地震で失った小場佐礼治さん(45)=熊本市中央区紺屋町=は、パイ専門店で再スタートを切った。西区二本木に再建した店は、間もなく1年。「どんな状況でも食べられ、元気になれるものを」。自慢のパイに決意を込める。

 2016年4月14日。前震が起きた時、同区小沢町に開いていたレストランは営業中だった。接客していた小場佐さんは、無我夢中で客を避難させた。客にけがは無かったが、調理中だった従業員の1人が腕に大やけどを負った。

 皿やグラスはほとんど割れ、床のあちこちが隆起。水道管は元栓が破裂した。16日の本震では内壁も崩壊。全壊だった。店のローンはまだ残っていた。「どうやって生きていこうか」。店を畳むことも考えたが、店の仲間は「一からでいい。やり直しましょう」と励ましてくれた。

 「とにかく前に進むしかない」。再起を模索する中、付き合いのあった合志市の知的障害者就労支援施設「野々島学園」の一角を間借りできることになった。何ができるのか考え抜いた。思い出したのは前震時の光景。料理を目の前に、客は身一つで避難せざるを得なかった。「災害に遭った際、どんな場所でも簡単に食べられ、冷めてもおいしいものがいい」。たどり着いたのがパイだった。

 16年7月に「ソウルキッチンパイ」をオープン。17年6月、今の場所に移した。定番のアップルパイのほか、肉を使った「おかず系」などもそろえる。厚みは4~5センチほどでボリュームたっぷり。昼食や手土産に求める新しい客も付き、前の店の客も来てくれる。

 小場佐さんは、県内を拠点とするヒップホップグループ「まむしMC’s」のメンバーとしても20年以上、活動を続けてきた。力強いリズムに熊本弁を交え、「諦めるな」と発信してきた。

 被災後も、音楽を手放さなかった。ことし4月には、宇土市であった地震2年のチャリティーライブに出演。「県内外から訪れたファンや共演者の前では店を失ったつらさや悔しさを感じ取られたくない」。地震に負けた姿を見せるわけにはいかない-。自分を追い込むことで、決意はより強くなった。

 ボランティアや音楽仲間の助けもあってこぎ着けた再スタート。それでも「今からが正念場。地震から時間が経過していく中で、最大の敵は自分だ」と小場佐さん。「諦めるな」のメッセージは、自身にも向けられている。(木村恭士)

(2018年5月15日付 熊本日日新聞朝刊掲載)

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