【特集】朝の連ドラ「半分、青い。」ロケ地の秘密 ちょっと早めのスピンオフ

「半分、青い。」に主演の永野芽郁さん

 NHKの連続テレビ小説「半分、青い。」は岐阜県美濃地方の架空の町に生まれ育った少女がヒロインだ。家族愛に包まれ、幼なじみとともに故郷で成長していく姿がとても印象的だ。小学生の時に左耳の聴力を失い、雨音が片方しか聞こえないことに「右だけ雨降っとる」と面白がり、雲を残して晴れ上がった空を見てドラマのタイトルになった「半分、青い」とつぶやく。ユニークな感性、はちきれんばかりの元気さとともに、せりふが心に残る。

 ロケ地の大半は岐阜県だが、隣接する愛知県でも名場面が撮られた。県境の木曽川の河川敷だ。木々が覆う川に突き出した一角、ゆったりとした川の流れを間近に眺めながら木陰の中で安らげる好スポット。鈴愛(すずめ)役の永野芽郁さんらが仲間とともに、時には一人で人生の岐路に向き合い、心を決めるシーンがある。漫画家を目指して上京、舞台は東京になったが、それでも回想場面として登場する、あの木曽川河川敷の魅力や歴史について語る。(共同通信=柴田友明)

 ▽驚異の記録

 最高視聴率62.9%という驚異的な記録、歴代の朝ドラとしてもっとも見られたのは1983年の「おしん」だった。子役の小林綾子さんが奉公に出るため舟に乗って母親と別れるシーン、舞台は両岸が雪に覆われた最上川(山形県)で、目頭を熱くした人もいるだろう。2001年の「ちゅらさん」は国仲涼子さんが主演、沖縄県・小浜島が舞台で、ガジュマルの木の下で子役たちが演じたシーンも有名だ。2013年の「あまちゃん」では、「北三陸鉄道」で上京するアキを演じる能年玲奈さん(当時、改名して、のんさん)を祖母役の宮本信子さんが大漁旗を振って見送った様子はまだ記憶に新しい。

 郷里の河川、樹木、家族・友人との別離…そのすべてのファクトを取り込み、選ばれたのが「半分、青い。」の木曽川河川敷だ。いいとこ取りの、ハイブリッド・ロケ地とも言える。

 ▽「聖地巡礼」ではない

 5月中旬、そのスポットを訪れた。暑い。夏のように強い日差しで、背中が汗ばんでいくのを感じながら、木陰に入った。涼しい。とうとうと流れる木曽川、上空には何羽かのトンビが旋回し、近くの中州にシラサギが静かに舞い降りる。時がゆっくりと流れる。安らぐ。石がごろごろ転がっていたり、岸が絶壁でもない河川敷。小さな小さな森と水の接点が醸し出すハーモニーと表現しても言い過ぎではない。

 ドラマや映画のロケ地やモデルになった場所を巡ることを「聖地巡礼」と言う。2016年に大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」(新海誠監督)で注目され、社会現象の一つとして取り上げられた。主な舞台はこれまた岐阜県と都内各地だった。

 実は今回の訪問は、その聖地巡礼ではない。木曽川の流域、濃尾平野の中心部、愛知県江南市は筆者の地元である。「半分、青い。」の制作・ロケーション担当の方には「さすがお目が高い」と言いたい。朝の連ドラの熱烈ファンでもない筆者が目を見張ったのが、故郷のなじみの場所が何度も放映されたことだった。高校時代まで過ごし、ジョギングで通ったエリアが今や「聖地」になったことは悪い気がしない。

 ▽大河ドラマの「原点」

 「やってまった」。「なにしとりゃーす」。時に、語尾を垂直にはねあげるようなイントネーション。ドラマで岐阜弁として紹介されているが、これらは濃尾地方の言葉で尾張弁、名古屋弁とほぼ同じ、ロケ地の愛知県江南市、対岸の岐阜県各務原市、モデルとされる同県恵那市などは筆者にとって同じ言語文化圏である。

 これを機会に木曽川流域の歴史もひもときたい。朝ドラというよりNHK大河ドラマ、戦国時代で描かれる典型的な舞台。織田信長、羽柴秀吉、斎藤道三、前田利家、山内一豊ら大河の主役に選ばれてきた武将たちが400年以上前に駆け巡った土地だ。

 「人々がそれぞれの野望や夢を追って戦い、死んだのに、木曽川だけは黙々と流れている。それが言いようもなく哀切で胸しめつける」。遠藤周作氏は晩年、日経新聞に連載した歴史小説「男の一生」で、あとがきにそう書いている。川並衆と呼ばれる流域の小豪族、野武士たちの生きざまを一人の武将の視点から、信長、秀吉、蜂須賀小六、そして迫害されるキリシタンたちの姿を描いている。

 若き日の司馬遼太郎氏も「国盗り物語」でこの時代を取り上げた。司馬氏は晩年、名作「街道をゆく」の最後のシリーズとして現地で取材・執筆を始めていた。しかし、1996年2月に亡くなったため、同年11月に遺稿をベースに「街道をゆく―濃尾参州記」として出版された。木曽川流域の話にはそれほど言及しておらず、最後に取っておこうとしていたのではないか…と筆者は想像する。

 「朝ドラの聖地は大河の聖地だった」としてこの稿を締めくくりたい。

「半分、青い。」の“聖地”となった木曽川河川敷=愛知県江南市

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