「ボルトン氏クビ」はジョークで終わるか

By 太田清

ホワイトハウスでテレビ番組の出演に応じるボルトン米大統領補佐官=9日(ゲッティ=共同)

 米国と北朝鮮との融和ムードを受け問題なく開催されるとの見方が強まっていた6月12日の米朝首脳会談だが、思わぬ障壁が現れた。強硬派とされるボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の一連の発言だ。テレビ番組などに出演し、制裁などの圧力でリビアに大量破壊兵器を放棄させた成功例「リビア方式」を北朝鮮に要求する考えを強調。核だけでなく大量破壊兵器全般の廃棄を求めたほか、核放棄へ向けた具体的行動があるまで制裁は緩めないし対価も与えないなどとタカ派色を鮮明にし、北朝鮮に譲歩を迫った。 

 北朝鮮が非核化に向け具体的行動を取れば「北朝鮮が繁栄するために協力する用意がある」と経済支援を行う考えを示したほか、「安全の保証を与えなくてはならない」と体制保証にも言及し、〝あめ〟をちらつかせるポンペオ国務長官とは対照的だ。 

 北朝鮮は反発し「核開発の初期段階にあったリビアを核保有国であるわが国と対比すること自体がこの上なく愚か」(金桂冠第1外務次官談話)とボルトン氏を名指しで批判し、首脳会談中止の可能性をちらつかせた。北朝鮮はもともと「核を持たないイラクやリビアなどは、米国の軍事侵攻を受け政権交代させられた」(李容浩外相)として、リビア方式に対する警戒感は並外れて強いとされる。 

 このまま応酬が続けば本当に史上初の首脳会談開催が危ぶまれる事態に陥りかねないが、米主要メディアによると、ホワイトハウスのサンダース報道官は米政権内でリビア方式を議論している事実はないとした上で、北朝鮮が対話を望まなければ「われわれは最大限の圧力をかけ続けるだけ」と強調した。 

 ボルトン氏がリビア方式を提唱する背景について、ニュースサイト「ビジネスインサイダー」は北朝鮮問題の専門家の話として、北朝鮮への強硬姿勢で知られるボルトン氏は自分の発言の影響を十分に認識しているとした上で「故意に首脳会談を失敗させようとしている」との考えを伝えた。 

 英ガーディアン紙(電子版)は、トランプ大統領がボルトン氏と行動を共にして強硬姿勢を貫くか、会談開催を優先するか決断を迫られると指摘。開催のためには北朝鮮への一定の譲歩が避けられないが、その場合、トランプ大統領とボルトン氏の立場の溝が深まるとの見方を紹介した。 

 一方、CNNテレビは「北朝鮮はボルトン氏を解任させようとしているのか」との記事を掲載、北朝鮮が首脳会談中止を示唆し米政権を揺さぶることで、ボルトン氏を米朝交渉に関与させないようにすることを狙っていると伝えた。

 「皆が当然と思っているノーベル平和賞受賞」に向け会談実現を優先するトランプ氏が、政権発足後、既に3人目の安保補佐官となるボルトン氏との関係を悪化させる恐れはないのか。トランプ大統領はボルトン氏就任直後の4月16日、フロリダ州で行われた会合で、同席したボルトン氏に観衆が立ち上がって拍手喝采を送ったことに対し「(彼の人気に)少し嫉妬を感じている。皆は彼を賞賛しているの? それは彼の仕事が終わると言うことだよ」とジョークを飛ばした。

 意見の相違があったとしても、就任したばかりの安保補佐官をすぐにも替えるとは思えないが、閣僚の解任を繰り返してきたトランプ氏の経歴を見るとジョークがジョークで終わらない可能性はある。 (共同通信=太田清)

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