金属行人(5月18日付)

 名は体を表す。文字や読み方には、何かしら意味がある。しかし新聞では、時々これをうまく伝えにくい。ドイツのティッセン・クルップは、その典型だ▼同社の現在の正式名称は「thyssenkrupp」。2015年まではティッセン社とクルップ社が統合した経緯を色濃く残し「T」と「K」が大文字だった。日本語で「ティッセン・クルップ」と中黒を入れるのはそのためで、改称した今は本来「ティッセンクルップ」にすべきかもしれない。データベース上、連続性が失われるため表記を変えられずにいる▼新日鉄住金が来年4月からの新社名とする「日本製鉄」も、文字だけ見れば戦前に発足した国策会社と同じ。ただし旧字体の「鐵」でなく新字体の「鉄」を採用している。読み方も違う。戦前のそれは「にほんせいてつ」。今回の新社名は「にっぽんせいてつ」。英語での表記も戦前は「ジャパン・アイアン&スチール」、今度は新日本製鉄時代と同じ「ニッポン・スチール」となる▼海外で新日鉄住金は正式な略称「NSSMC」より今も「ニッポン」とよく呼ばれる。海外の鉄鋼人から見れば「日本製鐵」が復活するという感覚はないだろう。約50年かけ培った「ニッポン」ブランドを日本製鉄でしっかり守ってもらいたい。

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