身近な歴史遺産 佐賀 長崎「登録文化財」巡り

 長崎市内に三つのキャンパスがある長崎大。その一つ、片淵キャンパス(同市片淵4丁目)には経済学部の校舎が並ぶ。前身の長崎高等商業学校(長崎高商)時代から数えて創立113年。緑豊かな敷地には、歴史を物語る三つの登録有形文化財(2007年指定)が静かにたたずんでいる。
 キャンパスに入るとき、学内最古の建造物が出迎える。表通りと大学の間を流れる西山川に架かる「拱橋(こまねきばし)」だ。1903年に架設された石造りのアーチ橋。名前の由来は「拱」が中国語でアーチを意味するからとも、守衛が遅刻しそうな学生に「はよ来んね」と手招きしたからとも伝わる。

西山川に架かる拱橋=長崎市片淵4丁目

 拱橋を左に曲がると2番目に古い建造物「経済学部倉庫」がある。07年完成のれんが造り。戦前は学生が軍事訓練をしており、倉庫は小銃などを保管する武器庫として使われていた。
 拱橋から正面に進むと、ひときわ目を引くれんが造りの洋館「瓊林(けいりん)会館」が現れる。長崎ゆかりの実業家、橋本喜造が19年に寄贈。研究館として使われていた。戦後は老朽化のため取り壊す予定だったが、学部の同窓会組織「瓊林会」が改修して、瓊林会館となった。現在は耐震性の問題で、内部は公開していない。
 東京、神戸に次いで全国3番目の高等商業学校として誕生した長崎高商。戦後は長崎大の学部の一つとなったが、「卒業生の結束力や学部への思いは強い」と瓊林会の金山榮事務局長は話す。それを物語るのが文教キャンパスへの移転をめぐる問題だ。64年に大学が移転を要請したが、これに学生や卒業生らが真っ向から反発。2年に及ぶ反対運動の末、移転は取りやめになった。学部職員の吉田恭二さんは「学舎への愛着や伝統への誇りゆえの行動だろう」と話す。
 「瓊林」の名は、徳のある人を意味する「瓊林栴檀(せんだん)」にちなむ。卒業生は創立以来約2万5千人に上る。時代を超えて若人の学びを支えてきた三つの史跡は、きょうもたくさんの学生を見守っている。

◎ちょっと寄り道 武藤文庫/貴重な資料も多数

 片淵キャンパス内にある長崎大付属図書館経済学部分館には、18世紀に刊行されたアダム・スミスの「国富論」など貴重な資料が納められた「武藤文庫」常設展示室がある。
 武藤文庫は、長崎高商の教授だった武藤長蔵博士(1881~1942)のコレクション。武藤博士は専門の経済学のほか文学や芸術など幅広い分野に造詣が深く、芥川龍之介や斎藤茂吉らとも交流があった。講義では常に数十冊の洋書を風呂敷に包んで持参していたという。
 江戸時代の絵師、川原慶賀が描いた「長崎出島之図」の原画など歴史資料約200点と、書籍約1万冊を収蔵している。平日は午前9時~午後9時半、土日祝日は午前10時半~午後4時半。見学無料。

アクセス

 ■アクセス JR長崎駅からは、路面電車「蛍茶屋」行きに乗り「諏訪神社前」下車徒歩10分。県営バスなら「循環」か「浜平・立山」「西山木場」行きのいずれかに乗り「経済学部前」で下車。車では長崎バイパス西山トンネルを出て約3分直進し「経済学部前」交差点を左折。

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