自分が感じた面白さ共有 佐世保「夜の読書会」を体験

 気の合う仲間との飲み会や好きな習い事。はたまた、終わらない仕事に向き合う残業-。平日の夜の過ごし方はさまざまだが、佐世保では読んだ本を携えて語り合う「夜の読書会」が月に1度開かれている。なぜ人は読書会に集うのか。魅力を探った。

 8日午後8時すぎ。繁華街の一角にあるバーの少し色あせた扉を開けた。カウンターで注文したジンジャーエールを手に、緊張しながら古い木の階段を上る。屋根裏部屋のようなスペースに10人ほどの男女がテーブルを囲んでいた。「どっちから始めましょうか」。主宰者の稗田憲太郎さん(29)が投げ掛けた。
 夜の読書会は、参加者が持ち寄った本について順番に話す。持ち時間は決まっておらず、ジャンルや冊数の制限もない。
 「これは危険な本」。耳を疑う言葉とともに、会社員の古川ゆい子さん(32)は「数の悪魔-算数・数学が楽しくなる12夜」(エンツェンスベルガー著、晶文社)を取り出した。算数が苦手な少年の夢に悪魔が毎晩登場し、問題を出しながら数字の面白さを説く話という。「理系の人が子どものころに読んでいたと聞いて読んでみたけど、分からなくて逆に嫌いになりそう…」と古川さん。
 私も高校時代、黒板に次々と現れる数式に理解が追いつかず、気分が悪くなり保健室に駆け込んだ経験がある。絶対に手に取らないはずの本を、読んでみたいと思ったのが不思議だった。
 1冊だけ紹介にも挑戦してみた。持参したのは、イギリスの貧困地区の託児所の日々をつづった「子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から」(ブレイディみかこ著、みすず書房)。中上流家庭や移民による貧困層への差別に言葉を失ったこと、移民と現地の子どもがぶつかり合いながらも心を通わせていることに希望を感じたこと…。拙い話にも参加者はうなずき、質問を投げ掛けてくれた。話し終えて本をテーブル中央の山に重ねると表紙を撮影する人もいた。自分が感じた面白さを誰かが共有してくれることは新鮮で、素直にうれしかった。

 「文字からは伝わらない熱量がある。口コミとは違う」。稗田さんは読書会の良さをそう語る。2016年3月に始めた夜の読書会。朝や昼に開かれる読書会が多い中、「飲み屋で隣になった人と盛り上がるように読書の話をしてみたい」と夜のバーを会場に。会員制交流サイト(SNS)での告知を続け、今では30代を中心に平均10人程度が集う。
 「出てくるのは毎回知らない本ばかり。友人とは違う人と集まるのも心地よい」。約1年前から通う古川さんは声を弾ませる。読書会を稗田さんと運営する山本陽司さん(31)は「価値観が変わると人は楽になるし、それができる本はたくさんある。“枠”が外れるきっかけにしたい」。
 長期休暇後の気分の重さが続いていたり、新年度の環境の変化に疲れたりしている人もいる季節。ちょっと違う気分になれる本を探しに、小さなバーの扉を開けてみてはいかが。

 長崎県佐世保市下京町の「Romantic Blast」で毎月第2火曜の午後8時~11時に開く。途中参加や退席もできる。参加は無料だがドリンクの注文が必要(1杯400円から)。紹介する本は漫画や雑誌でも可能。問い合わせは稗田さん(電090・5281・9449)。

自分が読んだ本について語り合う夜の読書会=佐世保市下京町、Romantic Blast

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