【新日鉄住金の業績動向】〈宮本勝弘副社長〉「新中期、ROS10%目指す」 数量回復、海外事業収益拡大を

マージン改善は「道半ば」

――前3月期の連結経常利益は7割増の2975億円でしたが、韓国ポスコなどアジアの鉄鋼大手メーカーと比べると劣位です。

 「ポスコや中国・宝武鋼鉄などアジア大手ミルと比べて収益力が劣っているのは、大きく二つの理由があると考えている。一つは設備・操業トラブルによる減産。前の期に比べて200万トン近い減産幅で、700億円の減益要因となった。全社減産幅を小さくするため増産コストも発生しており、実際には700億円を超える減益要因となっている」

――生産数量回復のためにどう対応しますか?

新日鉄住金・宮本副社長

 「設備トラブルは設備老朽化に加えて、オペレーションミスなどによるものや、高級鋼であるハイテン(高張力鋼板)比率の上昇などで設備負荷が増していることによるものが多かった。これに対してはメンテナンス含めて操業・保全対応に手を打ち始めている。設備と人のさらなる強化を図り、盤石な製造基盤の構築を図る。先進IoTや高度AIの活用も含め、操業・保全作業の標準化等も推進していく。新規に立ち上げた設備が想定通りの効果を上げていないものもあり、減益要因になっている面もある。エンジニアリング力を上げるべく、力を入れて取り組んでいく」

――海外大手ミルとの差となっている、もう一つの要因は。

 「マージン回復が不十分なことだ。例えば鋼材の内外価格差は大きく、日本の国内価格は韓国や中国市場と比べて、かなり安値と認識している。ホットコイルが900ドル程度に上昇している米国と比べれば、内外価格差はもっと広がる」

――主原料に対応するマージンは転嫁できたとのことでしたが。

 「主原料分は、販売価格に転嫁される仕組みがあることから、転嫁できている。それとは別に、前17年度は老朽設備の更新を含めて高品質な製品を再生産可能にするためのトン5千円の価格改善を打ち出したが、実現したのはトン2千円程度であり、道半ばとなっている」

 「これに加え、市況原料と呼ばれるマンガン、亜鉛、アルミ、油、鉄スクラップなどの価格上昇によるコストアップが数百億円規模に膨らんでおり、レンガなど資材費や人件費、物流コスト上昇分も含めるとコストアップは1千億円規模に達する。そうしたコストプッシュ分を販売価格に転嫁していかないと、製鉄業が成り立たず存続できない」

――前3月期業績では、単独ベースの営業損益は16年度の291億円の赤字から改善したものの、64億円の黒字にとどまります。

 「表面上は64億円の黒字だが、在庫評価差を除けば営業赤字であり16年度から悪化している。それが何を意味するかというとマージンが低過ぎるということだ。早期に適正価格を実現する必要がある」

――先日、新中期経営計画(18~20年度)を発表し、ROS(売上高経常利益率)10%を目標に掲げています。今18年度以降の利益レベルを展望すると、17年度下期の実力経常益(年率2700億円)を発射台に、増益・減益要因が混在しています。

 「増益要因は(1)生産販売数量増(2)3年間で1500億円を計画しているコスト削減(3)マージンの改善(4)グループ会社の収益拡大―が挙げられる。それらによって、ROS10%を目指していく」

――グループ会社の収益拡大とは、海外事業中心ですか?

 「特殊鋼事業の強化としてスウェーデンのオバコ社を子会社化する方針を決め、現在審査を受けている段階だが、それほど時間がかからずに子会社化できると考えている。実現すれば、すぐに収益貢献が期待できる。また山陽特殊製鋼の子会社化を検討中だが、予定通りに実現すれば来19年度からの収益貢献が期待できる」

 「またインドのエッサール買収については、米国で長い協業の歴史を持つアルセロール・ミッタルと組むことで、経営破綻したエッサールを良い形で再生できると確信している。インド国内は金利が高いためにフロー収益が圧迫されているが、エッサールはEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)は十分出ている。これらはいずれも、グリーンフィールドと呼ばれる新規案件ではなく、ブラウンフィールド(既存)案件。買収すれば収益化は早い」

――新中期計画では、設備投資1兆7千億円(前中期は1兆2600億円)、事業投資6千億円(同2100億円)と、積極的な投資姿勢が目立ちます。

 「これまで財務体質を良くしてきたのは、M&A案件などが出てきたときに機動的に対応するためであり、こういうチャンスに備えてきた。M&Aは、売り物が出てくるタイミングが限られている。機会を逸してはいけない。また設備健全化、競争力強化のための設備投資も重要。計画している投資をすべて行っても、DEレシオ(0・7程度)など財務指標は悪化しない」

――話を18年度以降の利益レベルに戻します。減益要素は何がありますか?

 「減益要因は(1)設備投資増加に伴う償却費増加(2)修繕費の増加(3)市況原料のコストアップ―などが挙げられる。設備投資は老朽更新に加え、ハイテン等拡大する高級鋼需要に応えられる体制を構築するためのものだ。そのためには、先ほど申し上げたマージンの改善が必要。なお修繕費は前中期に比べて10%程度増やす」

海外事業「キャッシュフロー重視」/化学・マテリアル2社統合「鉄以外の素材対応も強化」

――既存の海外事業については、黒字事業が増え、総じて収益改善が進んでいます。貢献度が高い事業は?

 「改善幅でいえば、米国のAM/NSカルバートやブラジルのウジミナスなどが大きい。ウジミナスは17年1~3月期に11四半期ぶりに黒字化し、17年通期でも黒字化した」

 「当社は北米にカルバート、INテック、INコートなど710万トンの鋼板生産能力を持つ。米国国内の市況上昇を受け、さらに業績が上振れる可能性もある。なお、前中期に海外事業で500億円の収益改善を目標としていたが、これは未達となった」

――海外で課題を抱える案件は。

 「バローレックとの鋼管合弁である伯VSB社は、高炉を休止するなどコスト削減を進めているが、さらに踏み込んだコスト削減策を考えている。インドにおけるタタ製鉄との自動車鋼板合弁は収益改善が遅れていたが、ここにきてオンラインになってきた。インドネシアのクラカタウとの鋼板合弁は立ち上げ途上であり、黒字化を目指す。中国・宝武鋼鉄とのブリキ合弁であるWINスチールも状況は改善している。事業運営ではキャッシュフローを重視している」

――最後に非鉄セグメントの動向について。

 「エンジニアリングは前期経常益が91億円に回復したが、受注が4千億円超で過去最高レベル。国内のガス化溶融炉案件が好調だ。買収した独社の受注も増えている」

 「化学とマテリアルは経営統合を決めたが、両社は顧客層が重なる面もある。新日鉄住金に新設した自動車材料企画室とも連携し、グループ横断的に鉄の強みを生かしながらマルチマテリアル対応を強化していきたい」

 「システムソリューションは過去最高益更新が続いている。経営資源をフルに活用し、システムの中でも高度な、難しい領域に強みを持っている」 (一柳 朋紀)

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