【現場を歩く】〈大型アルミ製品製造、軽金属押出開発・本社工場〉国内最大9500トンプレス保有 高効率、安定操業へ全社一丸で改善

 近年需要が旺盛な鉄道車両用アルミ形材や、半導体製造装置向けアルミ棒。こうした最大25メートルにも及ぶ長尺、大径製品を国内で一手に手掛けるのが、大手軽圧5社が出資する押出メーカー・軽金属押出開発(KOK、本社・三重県四日市市、社長・畑中孝一氏)だ。国内最大の9500トン直接複動押出プレスを保有するという独自の強みがありながら、押出機はこの1基のみ。限られた能力で需要家の要求に応え続けてきたのは、全社員一丸で挑み続ける改善活動に他ならない。随所で工夫を凝らし、順調に生産実績を拡大し続ける同社本社工場を訪れた。(佐野 雄紀)

最高の年産数量達成

 大型製品ニーズの高まりを追い風に、KOKの前年度生産はこれまでの記録だった8300トン(90年)を上回る8500トンまで伸長した。しかも棒材が中心だった90年当時と異なり、生産性が同製品比3分の1と製造難度が高い、形材が全体の6割を占める中での記録更新となる。

 この高負荷生産を実現したのは、オペレータが業務に集中できるような工程を検討する「手離れ化」、ベテラン社員が各工程をサポートする「外段取り化」を軸とした改善活動が結実したからだ。

プレスの効率運用

 「ご安全に!」―構内を歩くと、出会う社員全員が作業の手を止め大きな声で迎えてくれる。生産効率を追求する中でも、各担当者が「安全第一」を最優先する姿勢の表れであり、安全操業に努めて供給責任を果たそうとする同社の姿勢が垣間見える。

 24時間のフル稼働が続き、親会社から支給されるインゴット在庫は足元増加する傾向にある。そこで、工場西側のヤードを広げて上工程に近い位置へ配置。構内へ搬入する際の動線を短縮した。インゴットは専用の置場で番地管理され、必要なものがすぐにわかる仕組みとなっている。また工場内で切断後の使用時は自動クレーンで取り出すことができるシステムが構築されている。

 押出工程は1基のプレスをいかに効率良く稼働させるかがカギとなる。その指標となるのが設備の実働生産性、実働率(時間)だ。近年ではこれらを高めるため、押出機および周辺設備の改造を積極展開している。

 9500トンプレスは過去、大規模な故障により長期間休止を余儀なくされたことがあった。当時の反省を踏まえ、71年の創業時から稼働し老朽化も進む中で、近年主要部品の交換や油圧配管のリプレースを実施。最近では大型部品の予備品整備を進めることにより、高操業下での安定操業を継続するとともに、長期設備休止を回避する体制を築いてきた。

 また、より効率的な押出速度パターンを実現する速度制御を導入したことに加え、操作盤の上部に設置した「リアルタイム生産性表示システム」で生産性やエラー発生状況、実働率をタイムリーに表示。稼働状況を「見える化」することによって各自が現状を共有し、押出能力を最大化するとともに品質向上を図る。

手離れ、外段取り化支えるOB社員

 工具類の使用、運搬方法も見直しを重ねている。従来プレスに装着した状態でシャンク先端のチップをスパナで脱着していたが、独自に考案、作製した「チップ緩め装置」を使用することにより、チップ取り外しを外段取り化することでプレス停止時間の短縮を図った。周辺作業を補助する社員が作業に当たることで、オペレータの手離れも良くなる。

 チップ、シャンクの運搬は現在、取付け時は台車の活用を通じてクレーンレス化と時短を実現し、使用後は専用のクレーンでプレスを挟んだ反対側に搬送する。チップ取り外し後にフォークリフトで工場の外周を回り加熱炉側の洗浄炉へ届けるのはOB社員だ。

 工具類だけでなく、切断後のオフゲージ(残材)や切粉といったスクラップ類が入った鉄箱も定期的に回収、フォークを駆使して運ぶ。こうしたOB社員のサポートによりオペレータが従来以上に作業に集中でき、各工程の効率を上げている。

 知識と経験を活かし、OB社員は品質向上や改善につながる専用設備の作製にも大きく寄与する。「チップ緩め装置」に続いて、若手社員が考案した「キャニスター」の導入を検討している。

 これは押出した製品を両側で拘束して蛇行を防止し、品質を高めるもの。現在実用化に向けた試作を重ねており、専用設備の内製化によって、迅速な装置導入による早期の効果発揮に努めている。

下工程改善も進展

生産実績、順調に拡大/鉄道車両向けなど旺盛な需要に対応

 出荷までの下工程でも随所に工夫がなされる。管材を引っ張り矯正する際、中空部にセットする治具の挿入装置を製作。最大70キログラムともなる治具の運搬を機械化し、作業者の腰痛原因となる負担を大きく軽減した。

 続く切断工程では製品が流れるラインの途中にコンベアを設置、残材排出を自動化した。手作業での運搬時に散発していたヒヤリハットを防ぐとともに、コンベア周辺への安全柵の設置を通じて着実にトラブルを防ぐ。

 テンパー処理を施す熱処理工程でも、作業の見直しを重ねて製品の入替え時間を短縮したほか、合金名をはじめとする製品情報印字の省力化も進めた。棒材は手書きから、管材はスタンプから、それぞれ生産情報をマーキング装置に呼び出し自動印字することにより、手離れと人的ミスによる品質不良の防止に役立てている。今後もシステムに取り込まれた実績データを活用する考え方を横展開して、人の関与を削減していく方針だ。

 予熱、熱処理用の炉が点在し、夏場には構内の温度が上昇しやすいことから暑熱対策にも注力する。建屋上部に窓を設けて排熱を促すほか、プレス制御盤など6カ所にビニール製のブースを設置。スポットクーラーで室温を30度前後に制御して、良好な作業環境を作り上げている。

国内唯一のサプライヤーとして

 1969年、大型押出製品の需要創出を目的に軽圧、精錬11社の出資で設立されたKOK。鉄道車両やLNG船など、各国との販売競争を繰り広げ国策で拡販に取り組むインフラ向け部材の生産は、9500トンプレスを持つ同社以外に代替できるものではない。

 IoT、AI化に伴う半導体製造装置需要なども相まって、将来的な大型品ニーズの広がりが期待される中、KOKが果たす役割はますます大きくなると言える。こうした引き合いに対応し続けるべく、KOKの「終わりなき改善への挑戦」は今後も絶え間なく、世代を超えて展開され続けるだろう。

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