【新生・三井物産スチールの針路】〈宇都宮悟・新社長に聞く〉三井物産と一体運営強化 「お客様のバリュー上げる仕事を」

――4月1日、日鉄住金物産に約400万トン規模の物流事業と人員を移管し、新生「三井物産スチール(MBS)」がスタートしました。まずは現状から。

 「売上高が3500億円規模、取扱数量が370万トン程度。社員数は約360人で、そのうち約140人が三井物産からの出向者となっている。日鉄住金物産への移管は国内取引が多いため輸出の比率が増えた。国内と輸出がほぼ半々だが、輸出がやや上回るくらいになっている。取り扱いメーカーは新日鉄住金、JFEスチール、神戸製鋼所、日新製鋼のほか、特殊鋼メーカーや鋳鍛造メーカーなど含めて幅広い」

――前3月期の業績と2020年度に向けた目標数値は。

三井物産スチール・宇都宮社長

 「前3月期は三井物産からMBSに移管された薄板貿易事業の収益貢献もあるが、連結純利益61億円と前の期(37億円)比で大幅増益となり、過去最高益となった。4月に半分ぐらいの商売を移管したため今期は減収減益が避けられないが、連結純利益40億円を目標にしている。20年度には、大手町に構える三井物産の鉄鋼製品本部全体として連結純利益200億円を計画しているが、そのうち当社で50億円を稼ぎ出すのが目標だ」

――三井物産スチールをどういった企業にしますか?ビジョンを聞きたい。

 「今まで以上に三井物産との一体運営を強化する。当社内で社長直轄組織として総合力戦略部という組織を新たにつくったが、この組織が営業現場からの『よろず相談窓口』となってお客様からのご要望をくみ上げ、三井物産鉄鋼製品本部にある総合力戦略室と連携し事業化に仕上げていく。その事業の物流は当社が担うといったサイクルを回していきたい」

――役割分担は明確です。

 「当社はお客様の元、つまり現場に頻繁に通ってお客様の思いやニーズをくみ取ることが役割だ。三井物産の鉄鋼製品本部が4月以降、北海道、東北、中国、九州地区に配置した4人のスチールコーディネーターも、地場のお客様の新領域への進出や海外展開をサポートする。三井物産の他本部との総合力を活用する案件も紹介することができる。お客様のバリューを上げるお手伝いをし、期待に応えていきたい」

 「三井物産の持つグローバルな顧客網、販売拠点網、法務・財務・審査等のコーポレート機能を最大活用できること、現場に強い社員を有していることが当社の強みだ。現在、当社社員13人がロシア、メキシコ、アメリカ、ベトナム、インドネシア、ミャンマー、タイといった三井物産の海外拠点に出向して仕事をしており、そうした仕事は今後さらに増えていくだろう。海外研修制度の整備を進める方針だが、人材育成は大きな経営課題の一つだ」

――連結対象先のグループ会社について。

 「最大は50%出資するエムエム建材。メタルワンとの事業統合会社として発足3年半が経過したが、当初計画した利益数値をクリアできるようになってきた。三井物産、三菱商事、双日の総合商社3社のグループ力を生かし、順調な運営ができるようになってきている」

――その他は。

 「出資先としては新三興鋼管、セイケイ、MSSC等がある。各社とも定量面で当社連結収益に貢献してくれており、さらなる収益力強化を期待している」

――三井物産が2割出資することになった日鉄住金物産との連携は?

 「出資母体となる大手町の三井物産鉄鋼製品本部が核となって、シナジーを創出していく」

――4月に三井物産スチール本体の商品本部を4部門に組み替えました。重点分野について。

 「自動車・電磁鋼板部門では、モビリティー事業領域を包括的にカバーする形としており、三井物産がグローバルで展開する電磁鋼板加工拠点などと連携しながら、EV化進展など環境変化に対応して伸ばしていきたい」

 「機能商品部門は線材・特殊鋼などを扱う。差別化商品が多く、今後も力を入れていく。また、インフラ商品部門はブリキなどの薄板類や鋼管などを扱うが、これも差別化のためには重要な領域となる」

 「プロジェクト資材部門は建材一般のトレードに加え、特に海外の建築プロジェクトなどを追いかけていく」

――新社長としてどういう人や仕事を評価しますか?

 「私は徹底的に現場にこだわりたい。そして現場でつかんだものを発信してほしい。現状に安住するのではなく、良くするために変えよう、良くするために何かをしたい、という前向きな気持ちを大事にしてもらいたい。お客様に軸足を置き、謙虚な姿勢を忘れずに、一段上を目指そうという志を持ってほしい」(一柳 朋紀)

プロフィール

 中国語研修生時代も含めて、中国・台湾に通算18年駐在。ニューヨークにも駐在し、米国三井物産副社長を務めた。3月末までは三井物産上海総経理の立場で、鉄鋼のみならず幅広い分野を統括する立場だった。

 明朗活発で場を和ませる雰囲気を持つ。「謙虚・誠意」が持ち味で、30歳代の台湾駐在時代に、取引先の人から「宇都宮さんは、四角い机を丸くしてくれるね」と言われた。体を動かすことが好き。学生時代からサッカーやラグビー、フットサルで活躍。上海駐在時代はマラソンも。家族は夫人と2男。

略歴

 82年(昭57)早大政経卒、三井物産入社。鉄鋼製品業務部業務統括室長などを経て10年9月三井物産スチール出向(常務就任)。12年4月米国三井物産副社長。14年三井物産スチール副社長、15年三井物産(上海)貿易有限公司総経理、18年4月から現職。58年(昭33)5月20日生まれ、60歳。神奈川県出身。

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