【現地ルポ】〈新日鉄住金の電磁鋼板専門加工センター「タイスミロックス」〉着々と需要増捕捉、月4000トンに シナジー発揮し基盤強化

 タイの首都・バンコクから北へ70キロメートルほどの場所にあるアユタヤ県。このロジャナ工業団地に居を構えるのがタイスミロックス(TSLX)だ。

 同社の設立は1990年。旧住友金属工業を中心に旧野村貿易やタイの工業団地ディベロッパー、ピントン・グループによる合弁会社として誕生した。

 当初はバンコク近郊のサムットプラカーン県に工場を設け、スリッター1基、プレス機3台で91年に営業生産を開始。販売拡大に伴い手狭となったことから、2001年に現在のロジャナへ移転・拡張している。

 工場の敷地面積は4万7691平方メートル、工場面積は1万512平方メートルで、構内の約3分の1ずつを母材ヤード、スリットやプレスなど加工現場、製品置き場が分け合うレイアウトになっている。

 主な設備はスリッター2基と、15年に新設したミニスリッター1基、プレス機5台で、BCPの観点も踏まえた設備構成としている。また再検査・不良部除去など細やかな加工に適したミニスリッターが加わったことでスリッターの負荷を減らすとともに、外観など顧客の品質要求の高まりに応えている。

 さらに、これらスリット加工のみならず電磁鋼板をプレスや溶接、組立、検査まで一貫で手掛け、モーターコアを造る点もTSLXの特色だ。

 現在の主な資本構成は新日鉄住金52%、住友商事28%で、社長は新日鉄住金の出口智之氏が、取締役には住商の肥田木航氏が、技術担当のGMには新日鉄住金の三村洋之氏が就いている。

 事業環境について出口社長は「日系のお客様はエアコン、コンプレッサ、産業用モーター等の各分野で高水準の生産を続けている」と話す。昨年にはエアコンメーカー各社がタイで能力を増強。東南アジアのエアコン普及率は3割弱で、まだまだ伸び代があると期待されている。

 TSLXの販売量も11年の洪水被害後は落ち込んだものの15年以降は着実に増えており、現在は月間4千トン規模へと増加した。特に足元の4~5月はエアコン生産の需要期とあって、工場内は熱気と活気に満ちている。

 また統合で新日鉄住金が発足したことにより、TSLXにもさまざまな面でシナジーが生まれている。具体的には、販売先の増加に加え、電磁鋼板の調達も以前の和歌山製鉄所「一択」から八幡製鉄所と広畑製鉄所の「二択」へと広がり、BCPの観点からも補強された。

 取扱品種では、旧住金で生産していなかった方向性電磁鋼板(GO)を加工できるよう14年から体制整備を進めてきた。タイの電化率はすでに100%を達成しているが、需要のさらなる高度化が進む中で、新たな現地ニーズを捉える備えはできている。

 タイには新日鉄住金グループの事業会社が多く、互いに情報やノウハウを共有できる点も大きいという。薄板事業のNS―サイアム・ユナイテッドスチールや鋼管、棒線といった事業各社と安全や品質に関する勉強会を実施することで「TSLX社員のスキルアップにつながっている。統合によって育成の機会が増えたのは、事業運営にも寄与している」(出口社長)。

 TSLXは発足当時、40人でスタートした。現在の従業員は130人と3倍強になり、昨年末からは生産増に伴い数名増員している。新日鉄住金による直営の海外の事業会社として直に顧客と接する強みを発揮し「製・販・技一体」となって、引き続き安定供給・安定品質に努めるとともに、高度化する顧客のニーズに対して機敏に対応していくことで電磁鋼板の需要増を捕捉していく。(タイ・アユタヤ=黒澤広之)

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