鉄鋼自由貿易、欧州が「最後の砦」に

SG発動なら3000万トン分に影響

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 欧州委員会が調査を進めている輸入鋼材へのセーフガード(緊急輸入制限=SG)措置の行方が注目を集めている。仮に発動されれば対象となる鋼材は年間3千万トン分に及び、状況次第では「通商拡大法232条」を発動した米国以上に深刻な「ダイバージョン」を招く事態になりかねない。欧州委は近くSGの仮決定を下すものと見られるが、鉄鋼の自由貿易体制を占う「最後の砦」となりつつある。

 欧州委は、米政府が「232条」を発動し鉄鋼輸入に25%の追加関税を課し始めた直後の3月26日からSG調査を開始している。米向けに輸出できなくなった鋼材が欧州へ還流することを懸念したもので、対象品種も幅広い。EUは年間4千トンの鉄鋼を輸入しているが、SGの調査対象でないスラブなど半製品を除いても3千万トンに上る。

 日本からEUへの鋼材輸出は年間25万トン。数量的には限られるが、世界の重電大手が使う方向性電磁鋼板や、特殊鋼、エネルギー鋼材といった希少性の高い製品が多い。また直接輸出への影響だけでなく、世界各国の鉄鋼メーカーによる欧向け輸出が遮断され、結果的にアジア市場へ還流する打撃が懸念される。

 現地では、すでに輸入鋼材が増えているとして、欧州鉄鋼協会(ユーロフェル)がSGの発動を働き掛けている。同協会によると、2017年のEUの鉄鋼輸入は前年比2%減だったが、18年1~3月期は1割増となったもよう。品種では特に条鋼類が増え、国別ではロシアやイラン、トルコ、米国などが増えているとしている。

 現状、EUのSG調査を誘発した米国の「232条」で欧州は適用が猶予されている。しかしこの猶予期間が切れる6月1日以降については微妙な状況だ。232条の対象から除外される条件として韓国が飲んだ「クオーター制導入」は規定した数量を超えた場合に事実上、輸出を禁止される内容でWTOルール上も問題視されている。こうした条件を欧州が飲む可能性は低く、米がEUへの適用猶予を打ち切り追加関税の賦課を始めれば、欧州側も対抗措置としてSGの発動に踏み切りかねない。

 足元の欧州鉄鋼市況は、米による232条の適用懸念や、米が経済制裁を課すとするイランの動向をめぐり不透明感が強まり、先週から軟化基調が強まっている。英国のカラニッシュによると、欧州北部の熱延コイル市況はトン当たり565ユーロ前後と、先月から約20ユーロ下落した。欧州域内でSGを待望しかねない情勢だ。

 4月には米国や欧州への輸出依存度が高いトルコも輸入鉄鋼へのSG調査を開始した。こうした各国によるSGの連鎖を果たして回避できるかは、欧州が引き金を引くかに懸かっている。