【日本伸銅協会 創立70周年】

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柴田光義会長(古河電工会長)/高機能化で新規需要開拓/国際競争力向上へ研究開発強化

 伸銅品は自動車や電機など幅広い産業に不可欠な素材。日本伸銅協会は伸銅メーカーを支え経済の発展に貢献して70周年を迎えた。きょう24日には都内で記念式典が催される。加工性や導電性が高い伸銅品の活躍の場は今後IoT(モノのインターネット)や自動運転技術など先端分野にも広がる。業界の現状と展望を板条はじめ全体を統括する柴田光義会長(古河電工会長)と黄銅棒線業界を代表する釣谷宏行副会長(サンエツ金属社長)に聞いた。(古瀬 唯)

――70周年を迎えた所感から。

 「節目の年に会長職にあることは大変光栄。まずは歴史を刻んできた諸先輩に敬意を表したい。業界を取り巻く環境は変化しており、私が知る40年間では海外勢が力を付けるなかで量よりも高機能な製品が求められるようになった。リーマンショックから現在までの約10年間で特にその傾向は顕著。変化の中で生き残るため伸銅業は技術開発や業界再編などに必死で取り組んできたが、これからも変革し続けることが重要。重量だけでない評価指標など新たな発想も重視して協会長の職責を果たし、伸銅業をさらに発展させたい」

――現在の需要環境について。

 「17年度の生産は82万トン強で6年ぶりの高水準を記録した。板条製品は現在全般的に良い状況。質を追い続けてきたことで新たな分野でも使われ始めた。自動車向けは端子・コネクタ材が好調ななか、今後はEV(電気自動車)や自動運転技術の普及で板条製品を使う電子部品が増加することが追い風になる。またスマートフォンなどモバイル機器向けも伸びるほか、現在堅調な半導体向けはAI(人工知能)・IoTによる需要増が期待される。銅管はルームエアコン向けに加え、ビル用のパッケージエアコン向けもニーズが高く、今年度も旺盛な需要が続きそうだ」

――中長期的な見通しと対応策は。

 「高い品質や機能を生かした新展開が期待できる。EVやAIなど新分野でニーズが芽生える中、今後さらに業界が成長するには需要の顕在化が重要。技術戦略ロードマップに基づいた新分野の調査や共同開発を引き続き推進する。併せて我々の製品がいかに機能に優れ、顧客の要望を満足させるものかを積極的にアピールしたい」

――ロードマップに基づいた活動とは。

 「ロードマップでは次世代自動車とロボット、IoT、水素社会、宇宙・深海の5つを成長5分野に位置付け、その市場に対応する技術開発の明確化や共通課題への対応を目指している。成長市場の情報を収集し会員に活用してもらうため、これまで電子情報技術産業協会や日本ロボット工業会など需要家業界へのヒアリングや、調査会社と連携したセミナー、水素社会に関する専門家を招いての講演会などを行った」

 「また17年度には新エネルギー・産業技術総合開発機構から超高強度銅合金のテーマが助成事業に採択され、産学連携で開発に取り組んだ。その成果として研究室段階で強度が約3割向上。現在特許を申請している。今後は素材強度アップによる部材のコンパクト化などメリットをPRしたい。今年度の改定では重点テーマを精査しさらに深堀りする」

――国際競争力も業界の発展に重要です。

 「海外では自動車や電子機器のニーズ拡大が見込まれる。これはEVやIoTなどの新分野についても同様。幸い新分野は現在、日系顧客が世界的に強い。我々もグローバルに競争力を確保するには研究開発を強化し、輸出でも勝てる高機能な伸銅品を増やすことが大切だ。また次のステップとしては実力があり高機能材料の価値を認めてくれる海外系ユーザーの動向を注視することも求められる。併せて中国はじめ海外勢が力を増す中、海外展開を考えることも重要。進出には市場情報の収集・分析に加え、投資や提携に関する戦略の策定などが課題になる。要望があれば公的機関と連携した情報提供などで支援したい」

――昨年は会員の品質問題がクローズアップされました。

 「問題を受け一斉点検を実施したほか、品質管理ガイドラインを策定した。ガイドラインには製品の不具合が発生した際の影響を事前に正しく想定・評価し、経営資源の配分を決める品質リスクマネジメントなど新たな考え方を盛り込んだ。今後は研修会などで周知徹底する。一つひとつの施策を誠実に進め、業界の信頼を回復させる。また個人的には経営トップが製造現場に関心を持ち、足を運んで状態を肌で感じるとともに、自分の言葉で品質の大切さを語ることが重要だと感じている」

――持続的な発展への人材確保・育成は。

 「定年退職者が増えるなか人材の確保・育成は重要課題。現在は他の非鉄関連団体と連携した学生向けの講演会や、流通の皆さんと共同での新人・若手の技術講習会を行っている。また伸銅業が持つ魅力を発信することも大切だ。自動車の電動化、電子機器の高度化に伸銅品は不可欠。技術が進歩する中で社会を支える主役といってもいいだろう。社会に貢献している状況を丁寧に説明すれば人材確保につながる。また社会やユーザーを強く意識することは、今いる人材の士気を高める効果もある。併せて業界の魅力を高める安全対策として現在、一部会員が持つ危険体感設備を会員社が利用できないか模索している」

釣谷宏行副会長(サンエツ金属社長)/水素社会での成長期待/高強度の新材料共同開発

――まずは黄銅棒線業界の70年を振り返って。

 「日本の伸銅メーカーは過去幅広い品種を手掛けるスタイルが一般的だったが、戦後から高度成長期にかけて板条、管および棒線主体の企業に分化が進んだ。棒線メーカーの数は多かったものの、経済成長を受けてバブル期までは総じて順調な経営環境が続いていた。ただ90年代前半のバブル崩壊による需要減を受けて過当競争が顕在化。さらに08年のリーマンショック後には円高で需要家の海外生産が増え、ニーズが国外に流出した。二度に渡る荒波を業界再編などで乗り越え、現在は健全な市場が形成され各社経営も安定してきた。その中で70年の節目を副会長として迎えられたことは光栄。会長を支える責務を全力で果たしたい」

――足元の市場環境についての認識は。

 「黄銅棒は順調な住宅分野での需要を背景としてガス機器・水栓金具・バルブの主要3分野がともに堅調。引き続き高水準のニーズが見込まれる。また今後は東京五輪に向けた需要の立ち上がりにも期待している。銅価については急変する材料は現在のところないが、高騰すれば素材間の競争力に影響が出るため注視していかなければならない」

――中長期的な需要動向や課題は。

 「黄銅棒は建築関連需要が多く、現在の需要分野については人口減などで長期的にはある程度の減少を覚悟する必要が出てくるかもしれない。ただ高機能な銅材料は新たな需要が見込まれるので、これからはその取り込みが課題だ。協会が定めた技術戦略ロードマップに基づく新分野に関する調査や共同開発は増々重要になってくる。目先はボリュームが右肩上がりになるかは分からない状況だが、新分野を開拓する努力が結実すれば業界としてさらに発展していけるだろう」

 「ロードマップでは水素社会を需要拡大が見込まれる成長5分野の一つに位置付けており、黄銅は水素によって脆化しない特性があるので燃料電池車などのための水素ステーションでの採用を期待している。この分野では部品に高い耐圧性が求められ、日本の基準は世界と比べてさらに厳しく設定されている。材料には強度を含めた高い特性が要求されるので、新たな黄銅材料の開発が重要だ。そのために国やユーザーの動向を業界としてタイムリーに捕捉し、各社協力して対応することが大切。今後は国の助成を受けるなどして共同して研究開発を進めたい」

――黄銅線についてはいかがですか。

 「電気配線をつなぐコネクタの小型化を受け、接点の材料として非常に細い線が大量に使われ始めている。細い線は重量面でのインパクトこそ少ないが、加工度が高いので付加価値は大きい。めっきとの組み合わせなど工夫をしていけばさらに付加価値を向上していけるはずだ。伸銅品の薄型細径化が進む中で業界の実態を把握するためには、重さでない新たな指標も重要になるかもしれない」

――国際競争力の強化に向けて重要なことは。

 「ユーザーの加工効率を高める真直度や真円度に加え、少量多品種に対応できることが日本の黄銅棒線メーカーの強み。また海外メーカーでは新地金で黄銅棒線を製造している会社も多いが、我々は原料問屋の皆さんと培ってきた強固な関係を生かし、リサイクル材でコスト競争力に優れる製品を製造できる。現在のところ円高是正などで海外材流入に関する目立った動きはないが、今後も優位性を保つため研究開発や品質投資が重要。また国際的な環境規制強化で鉛レス黄銅棒がさらに普及すれば、リサイクル原料を一層厳密に分別回収することが必要になるが、原料問屋の皆さんがしっかりした体制を作ってくれていることが我々の競争力をさらに高めてくれるだろう」

――海外で拡販するチャンスも。

 「今後は輸出で外需を捕捉するチャンスにも期待できる。黄銅棒では求められる精度が高まる中で品質力を生かすことも重要。黄銅線ではアジアの市場への供給実績も多く、ここは伸びしろになるだろう。海外市場を取り込んでいくためには、高い品質に加えて販売や在庫などの拠点を持つことも必要になると思う」

――人材の確保・育成に関しては。

 「現在行っている非鉄金属関連団体との連携に加え、日本銅学会の表彰や研究助成制度を生かし大学の研究室などにさらにPRする取り組みも必要だと思う。また働き方の改革も大切。例えば夜勤をなくし労働環境を改善すれば良い人材が集まるほか、業務の効率や職場のコミュニケーションの面でもメリットが出せる。電力自由化で夜間電力にとらわれない操業がしやすくなっているほか、夜間操業が必要な工程については進化してきた自動化技術で対応できる。また不況時にも優秀な人材を見定めて着実に採用することも人材の層を厚くするためには重要だと思う」