SL大樹のおもてなし

(上)倉ケ崎地区にて。架線柱の処理が難しいが、沿線の中では開けた場所の一つ。住宅地からは離れており、ここで見応えのある煙を出してくれれば…、(下)下今市駅構内に新たに造られた「れんが調」の機関庫をバックに、山口県の長門市駅から移設された転車台に乗るSL

 東武鉄道の鬼怒川線で「SL大樹(たいじゅ)」が走り始めたのは昨年8月。3年前の夏、「東武にSL復活!」というニュースに衝撃を受けたにもかかわらず、「(首都圏から)近いのでいつでも行ける」となかなか足が向かなかった。

 そうは言っても、1年前にデビューした特急「リバティ」にもまだ乗っていないし…。というわけでこのゴールデンウイーク前にリバティで鬼怒川線を訪れた。

 SL大樹は週末を中心に栃木県の下今市駅~鬼怒川温泉駅間の12・4キロで1日3往復運行されており、今回は下今市を午後1時に出発する2往復目の大樹3号の指定券を購入。その前に1往復目の大樹2号を撮影するべく、下今市から二つ先の大桑で下車。そこから20分ほど歩いた「倉ケ崎」地区に陣取った。

 水を張ったばかりの田んぼの向こうに線路があり、バックには新緑の木々という好撮影地。正面のヘッドライトが左右にある「カニ目」のC11207は、まずまずの煙を伴ってやってきた。

 連写のシャッターを押している間が至福の時。スピードが遅く、SL本来の力強さを出し切っているとは言えなかったが、安全装置を積んだ車掌車、鮮やかなブルーの国鉄特急用14系客車、最後尾の真っ赤なディーゼル機関車DE10の組み合わせに、さほど違和感はなかった。

 下今市に戻ってSL展示館やレトロ跨線橋を見学後、いよいよ大樹3号に乗車。ホームでC11のそばに行ってみた。蒸気がほとばしる音、熱気と石炭のにおい。やっぱりSLはいいね―。

 鬼怒川温泉までの乗車時間は約35分。椅子の背もたれの真っ白なカバー、車内アナウンスの前後に流れるチャイムは国鉄時代そのままで懐かしかった。

 それ以上に好感が持てたのは、アテンダントさんの「おもてなし」。乗客一人一人に記念乗車証と、細かい手書き文字がびっしりの「SLアテンダント通信」を手渡し、笑顔で話しかける。私も恥ずかしさを感じながらも話し込んでしまった。

(上)下今市駅で、昨年4月に登場した500系「リバティ」と1941年生まれのC11207。新型車両と古豪の顔合わせは、大手私鉄ならでは、(下)アテンダントらが手を振る中、鬼怒川温泉駅前での方向転換。この転車台は広島県の三次駅にあったもの

 大手私鉄による前例のないSL復活は、C11を貸与したJR北海道をはじめ、転車台の譲渡や乗務員の養成で鉄道各社の協力を得て実現した。そして今回、現地を訪れて随所に感じたのは、SLの見せ方やサービスに一工夫していることだった。

 「アテンダント通信」もそのひとつ。鬼怒川温泉駅前の転車台ではSLの方向転換を公開しながら、いろいろな汽笛を鳴らして意味を説明していた。

 SL大樹は「SLで鬼怒川温泉へ」というお手軽な観光列車ではなく、鉄道遺産をリスペクトしつつ、SLに手を振る運動、沿線に花畑を整備する取り組みなどで沿線地域も巻き込んだ現在進行形のプロジェクトだ。

 東武鉄道の尽力に、SLファンの一人として敬意を表したい。欲を言えば、どこかに迫力のある煙を出すポイントを設け、撮影用の「お立ち台」を造っていただけないでしょうか。

 ☆藤戸浩一 撮影中心の旅はいつも慌ただしい。次の訪問では駅も新設された「東武ワールドスクウェア」を見学し、鬼怒川温泉でのんびり湯につかりたい。

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