障害って何? 自分なりに出した答えとは  「生きる、を見つめる(中編)」 U30のコンパス+

デンマークの留学先「エグモントホイスコーレ」でのひとこま

 2017年1月、高橋菜美子(27)がデンマークに到着して2日目のできごとだった。
 「コーヒーが飲みたいので、カフェに連れて行ってくれませんか」。他の日本人学生と駅で談笑中、白杖を持つ男性に話しかけられた。1人がカフェへ案内する後ろ姿を見て、ふと気付いた。周りに点字ブロックが見当たらない。

 男性は駅までどうやって来たのだろうか。学校に着くと、先生に浮かんだ疑問を尋ねた。「周りの人に連れて行ってもらうことが多いわ」。周りの人間は自分に必ず応えてくれる。他者への信頼度の高さに驚いた。

 東京で働いていた頃を思い出した。もし自分が同じように呼び止められたら、謝りつつ先を急いだかもしれない。日本は、点字ブロックをはじめ、建物のバリアフリーが充実している。でも、誰かの声に応える時間と心のゆとりが、なさそうに思えた。

 留学先の「エグモントホイスコーレ」は、全寮制の教育機関。全校生徒の半数近くは障害者だった。

 病気が分かる前、「障害者」という言葉に抱いていたイメージは「助けないといけない存在」。街中で見かけると、その人の苦労を勝手に想像して、心を痛めていた。

 デンマークで目にした現実は、全然違った。

 車いすに乗った生徒が、障害のない生徒と楽しそうに廊下を全速力で駆け抜けていた。自分の手でフォークが持てなければ、周りが食事を口に運ぶ。声を出せない生徒がタブレットを使って冗談を言い、周りを笑わせた。会話をする時は、誰もが手をつなぎながら耳を傾けた。

デンマークの留学先「エグモントホイスコーレ」でのひとこま

 日本で通った学校に、特別支援学級はなかった。だから、障害者も健常者も混ざって、共に過ごす目の前の光景に、ただ圧倒された。

 留学が始まって数カ月後、修学旅行でイスラエルとパレスチナを訪れた。これまで紛争が続いてきた地域。道路や宿泊先にバリアフリーが整っている訳ではない。でも、そんなことは、生徒たちにはどこ吹く風だった。

 石段が目の前にあれば、電動車いすの子を周りにいた生徒が持ち上げた。上り終えるとハイタッチ、誰もが笑顔だった。何度も体験するうちに気付いた。バリアフリーが整っていなくても、どうやって乗り越えるかをみんなで考えることはできる。「ハード面の整備よりも、それぞれのハートの在り方が大事なんだ」

イスラエル・パレスチナの修学旅行にて

 留学が決まってから約1年間、インターネット上に「デンマーク留学記」を公開してきた。「障害ってなんだろう。どうやって生きていけば良いの?」。突然障害者になった自分が、行く前に抱いていた疑問。最終回に自分なりの答えをつづった。

 「私が探し求めていた障害者なんていませんでした。目の前の友人はただの『あなた』だったし、立ち尽くしている私は、ただの『わたし』でした」

 障害や病気があるかどうかは関係ない。自分の手足の力でも、誰かを支えることはできるのかもしれない。「みんな違うことを理解して、足りない部分があれば、お互いに持てる力を出し合って支え合う。社会で生きるために大事なのは、そういうことなんだ」(後編に続く、敬称略、共同=大友麻緒27歳)

高橋菜美子さんの留学日記はこちらから

https://plus-handicap.com/2016/11/8013/

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