「全雄」トラフグ生産へ 実用化に向け養殖試験 付加価値向上図る 長崎県総合水試

 長崎県総合水産試験場は、商品価値の高い白子(精巣)を持つ雄のトラフグだけを選択的に生産する技術の実用化に向け、今月から民間の生産者による養殖試験を始める。高級珍味の白子を持つ雄は他のトラフグよりも2割ほど高値で取引されており、県は「全雄」種苗を普及させることで、日本一の生産量を誇る養殖トラフグの付加価値向上につなげたい考えだ。
 全雄種苗の生産技術開発に向けた取り組みは2009年に東京海洋大、東京大と共同で開始。12年には次世代が必ず雄になる染色体を持つ「超雄」の生産に成功し、15年には超雄の精子から雄だけを生産する技術を確立させた。16年からは長崎市多以良町の同試験場内で、全雄トラフグの成長や歩留まり(生存率)を調べ、通常と比べても差がないことを確認した。
 生産者による養殖試験は実用化に向けた最終段階という位置付け。松浦市や佐世保市、平戸市などの九つ生産者に対し、県内の種苗生産業者を通じて各5千~7千匹を販売。各生産者が白子の成長具合や歩留まりなどをチェックして試験場に報告する。早ければ来年冬には市場に出荷し、取引価格や買い手からの評価なども確認する。
 試験場によると、全雄化技術は東京大や愛知県の飼料メーカーが独自の手法を研究しているが、長崎県の技術は白子が早く成長する種苗を生産できることが大きな特長。トラフグの需要が高くなる年末に白子を出荷しやすくなり、長崎県産の優位性をつくり出すことが期待されるという。
 長崎県の17年の養殖トラフグ生産量は約2千トンで全国シェアの半数を占める。しかし、近年は中国産の増加などで値崩れが起こりやすく、取引価格が採算ラインを大きく下回る年もある。同試験場は「全雄種苗を広く普及させ、生産者の経営安定に役立てたい。まずは試験結果を検証し、円滑な導入を図りたい」としている。

県総合水産試験場の水槽内で成長具合などを確認している全雄のトラフグ=長崎市多以良町

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