『三千円の使いかた』原田ひ香著 人と人を結ぶ「三千円」に願うこと

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 ネットや書店を巡り歩くと、案外「お金持ちになる方法」があふれていることがわかる。「宝くじを当てる」とか「食費を倹約する」とかではない。「お金に対する遠慮をなくそう」とか「お金が欲しいなら自己評価を上げよう」とか「新月の夜に空の財布を振ろう」とか、21世紀のお金稼ぎは、もはや精神論である。

 彼ら彼女らはそうやってお金を得たのだというから、信じたい人は信じればいいし、煙たいならば近づかなければいい。ひとつの正解があるわけではなく、自分に合う方法を探し、選びとるしかないのは、ダイエットと同じだ。

 本書は3代にわたる女性たちが、それぞれの方法で節約したり、使い方を吟味したり、貯蓄することを始めてみたりする短編集だ。お金に関しては潔癖だったのに、友人の婚約指輪をきっかけに、封じ込めてきた物欲に揺れる姉と、その姉にちょっとしたコンプレックスを抱く妹(ともに20代)。自分の病と、親友の熟年離婚に直面して人生を回顧する50代の母。長い人生いろいろあったけど、要は自分は「働きたい」のではないかと思い至る70代の祖母。

 お金の扱い方に、その人の人生観や世界観がにじみ出る。ひとりで生きていこうとする人。誰かと生きていこうとする人。将来のために生きている人。今だけのために生きている人。そういった人たちが、自分とは違う人生観を持つ人と出会い、自分の人生観を問い直す。登場人物たちはお金を通して、互いの人生を確かめあい、互いに成長を促していく。お金をテーマにした一冊ではあるけれど、せちがらくない。むしろ、その逆である。

 物語終盤、ある登場人物の幸せのために、一家が連帯する。家のことには我関せずだった父親までもが。お金は、自分ひとりを豊かにするためのものではなく、人と人との間を行き来するものだということに気づく。ああ、そういえば誰かが言っていた。お金は、快く出すべきであると。出すときの気持ちが潔ければ潔いほど、そのお金は返ってくるのだと。今ひとつピンと来なかったけれど、あれは、こういうことか。節約中には数十円も惜しいけれど、大切な人の幸せのためなら少しも惜しくない。

 ただ、そんな出費にも、テクニックが要る。そのことを、この本は率直に教えてくれる。そしてお金は、人と人を結ぶ。使いようによっては。だから今、手の中にあるこのお金を、いつか受け取る人の幸せを願おう。

(中央公論新社 1500円+税)=小川志津子