【製鉄プラントのスチールプランテック、中国での電気炉拡販戦略】高効率炉「エコアーク」普及へ 鉄スクラップ発生増と環境問題が後押し

 製鉄プラント会社のスチールプランテック(社長・灘信之氏)は、独自の環境対応型高効率アーク炉「エコアーク」の拡販に注力している。国内での実績を軸に海外へも展開しており、直近では中国で同国の鉄鋼業界に強い影響力を持つ中国金属学会(CSM)と北京で協定書を締結。環境意識が高まる中国で両者が協力しながら「エコアーク」の普及・拡販を図るもので、このほど同国の鉄鋼メーカーから中国での初受注に至った。銑鋼セクター長の青範夫取締役は「中国では納期が日本のほぼ半分でスピードが求められる。標準機設計や現地パートナーとの連携により拡大するニーズに対応したい」とする。

 「エコアーク」は同社が独自に開発した次世代の電気炉。国内4基、海外2基が稼働しており70トン~200トンの大型炉でも30%の電力原単位削減や黒鉛電極原単位の30~40%削減を達成するなど大幅な生産コストおよび環境負荷の低減を実現する。海外では、韓国・東国製鋼とタイ・UMCメタルズへの納入実績を持つが、中国市場をターゲットに新たな展開を図っている。中国ではアーク炉需要が17年から急増。その要因の一つは年間生産能力1億トンともいわれた違法鋼材「地条鋼」(誘導炉)の撤廃で、6千万トン近くの鉄スクラップがあぶれたほか、鋼材需給も引き締まった。さらに環境問題への関心が高まる中で、効率の悪い「ミニ高炉」の設備が削減され、アーク炉へのシフトが進んだ。

 同国での鉄スクラップの大量発生も電炉需要拡大を後押しする。2020年末の中国における鉄鋼蓄積量は100億トンに達する見込みで、鉄スクラップの発生量も2億トンに拡大するとされる。マッキンゼーのレポートによると、中国の粗鋼生産(2016年)のうち電炉鋼の占める割合は6・5%で高炉による生産が主流だ。しかし、鉄スクラップの発生量増大と環境問題への対応で高炉から電炉へのシフトの機運が高まり「地条鋼」の撤廃により1年で顕在化したのが昨年だった。中国の粗鋼生産量は2030年に6億トンに低下し、電炉鋼比率は20~30%に拡大するとの試算もある。

 こうした中、同社でも中国向けのPR活動を展開。その端緒となる04年に岸和田製鋼へ中国の鉄鋼関係者が見学に訪れ、CSMから技術的に高い評価を受けた。昨年9月には北京でCSMの協力の下、「エコアークセミナー」を開催。同年11月には中国各社との技術交流ツアー、12月には岸和田製鋼で再度見学会を実施し、同月の協定書締結に至った。

 中国政府は鉄鋼業界の「高品質発展」を促進する方針を打ち出しており、鉄鋼各社の自主的な〝転型〟(高炉から電炉へのシフト)を促しているという。さらに、18年に生産能力3千万トンの削減を企図する中で、炉の置換は転炉から電炉は「等量置換」を認めるが、旧式高炉から新型高炉への置換は「減量置換」を義務付けた。鉄スクラップの大回収時期到来と電力供給改革によって電炉プロセス発展の基盤も形成されている。

 CSMによると、昨年だけで140基の電炉建設計画があったというが、ユーザーは目先の利益を求め事業に従来炉で参入するケースが多く「需要の増加はあまりにも急激で一度反動減がありそうだ」と青取締役は語る。しかし、環境や効率を重視する政府の方針の中で「エコアークはより注目されそうだ。実際に納入して性能の良さを示していくことが大切」と強調する。こうした意味でも今回、同国で電炉を初受注した意義は大きい。

 さらに、「エコアーク」は連続密閉炉で外気の影響を受けず、加熱装置のモデルもシンプル。中国が力を入れる〝知能化〟を従来炉より進めやすいというメリットがある。同社では排ガス分析計を開発し、画像処理によりシャフトの鉄スクラップ量を把握できる装置も開発中で「モデル化によって排ガス燃焼・成分のコントロールもできる。鉄スクラップの配合情報も入力してデータを活用できそうだ」とする。CSMは中国での「エコアーク」を「エコアーク生態電弧炉」と命名したがその〝生態〟はまだ〝進化〟の余地を大きく残している格好だ。

 その前提として当然「日本国内のお客様を大事にしていく」と青取締役は強調する。世界的に黒鉛電極の価格が上昇する中で「エコアーク」は電極原単位や使用電力などを抑制でき、国内顧客のメリットも高い。国内事情に合わせた炉の提供にも努めていく構え。その一環として「エコアーク」の技術を軸に既存設備を活用し工期を1カ月半に短縮可能な「エコアークライト」を開発し、中山鋼業から初受注している。国内外両輪の戦略で普及拡大を図っていく。(村上 倫)

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