イシグロ文学の魅力探る 特別講座 映画や音楽も 長崎で3日間

 長崎市生まれの英国人作家、カズオ・イシグロ氏の作品を紹介する講座「カズオ・イシグロの世界~心のふるさと 長崎~」(全3回)が、このほど長崎市で開かれた。14、19、20日の3日間、小説やゆかりの映画、音楽を通し、イシグロ文学の魅力を探った。
 昨年ノーベル文学賞を受け、名誉県民、名誉市民となったイシグロ氏の作品世界を体感しようと同市中央公民館(井手達夫館長)が主催した特別講座。
 14日の初回は、活水女子大の深堀悦子教授が「記憶と文学」のテーマで講演。「遠い山なみの光」と「日の名残り」の2作品を取り上げて解説した。深堀教授は「記憶というのは曖昧であり、その時の思いや、現在の思いが反映される。変容し、無意識かもしれないが、自分の都合で歪曲(わいきょく)することもある」と指摘。「遠い山なみの光」では、「登場する2組の母と娘がオーバーラップして描かれている」と話した。
 19日の第2回は2部構成。第1部のトークセッションでは、イシグロ作品に詳しい川崎綾子(メトロ書店常務取締役、読書アドバイザー)、佐々野桜(Kazuo Ishiguro Club主宰)、安元哲男(「ながさき・愛の映画祭委員会」事務局長)の3氏が、それぞれ作品との関わりや思いを語った。
 川崎さんは、ノーベル賞受賞をめぐる出版社や読者の反響などを話し、「長崎にぜひイシグロさんをお招きしましょう」と呼び掛けた。佐々野さんは、「イシグロ作品の読書会を通して魅力を発信できるような機会をつくりたい」と話した。安元さんは、イシグロ氏が第47回カンヌ国際映画祭(1994年)で審査員を務めたことや、96年に吉田喜重監督、岡田茉莉子主演で「遠い山なみの光」の映画化が決定していたが、クランクイン直前に製作中止となったエピソードなどを紹介。映画を手掛かりにイシグロ作品を読み解いた。
 第2部は音楽がテーマ。イシグロ氏の創作に影響を与えたボブ・ディラン、トム・ウェイツらの曲や、イシグロ氏が作詞を手掛けたステイシー・ケントの「バレット・トレイン(新幹線)」などを聴き、創作の過程に思いをはせた。
 14日の講演と19日のトークセッションには、2日間で県内外から延べ145人が参加。20日の最終回は、映画「日の名残り」(英国、93年)を約300人が鑑賞した。

イシグロ作品について語り合ったトークセッション。(左から)佐々野さん、川崎さん、安元さん=19日、長崎市魚の町、市中央公民館
「記憶と文学」のテーマで講演する深堀教授=14日、長崎市中央公民館

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