【ISSFプラントツアー、青拓集団(中国福建省)】世界最大のステンレス鋼板拠点 ニッケル銑鉄から一貫生産

 青山控股集団(会長・項光達氏)は世界最大手のステンレスメーカー。中国、インドネシアを中心にインド、米国、ジンバブエにも生産展開し、ステンレス産業の世界地図を塗り替えようとしている。青拓集団は中核子会社で、福建省福安市の主力工場は粗鋼能力370万トンと1拠点で日本勢の総計を上回る。ISSF(国際ステンレス鋼フォーラム)の第22回年次総会後のプラントツアーに同行したので、現状をレポートする。(福安発=谷山恵三)

 プラントツアーではまず研究開発部門である青拓研究院の江来珠院長が青山の現状を説明した。規模で頂点に立った青山が開発分野で世界に挑むのはこれからの課題。研究院の発足は2016年2月とまだ日が浅く、ヘッドハンティングで開発力強化を急ぐ。宝鋼の高級技術幹部だった江氏は大きな期待を背負いながら60人の研究者を率いている。

 青山の17年総売上高は前年比57%増の240億米ドル、ステンレス粗鋼生産は同27%増の700万トン、ニッケル銑鉄(NPI)生産は同38%増の22万トン(ニッケル純分ベース)。江氏は1992年設立以降の沿革で「2010年の青拓における『RKEF+AOD』一貫生産体制の構築が大きな転機になった」と強調した。

 フェロニッケル生産ではロータリーキルンと製錬電気炉の組み合わせは伝統的手法だが、『RKEF+AOD』法はRKEF→AOD→LF→CCの順でNPI生産とステンレス製鋼を直結し、溶けたNPIをAODに投入する。クロム原料やステンレススクラップは一般的な電炉で溶かし、AODで混ぜ合わせる。RKEF法はそれまで主流だった高炉法よりも高品位で300系ステンレスに適したNPIを効率的に生産でき、注目を受けるようになった。

 ニッケル系ステンレスのコスト構成に占める原料比率は極めて高い。原料工程の収益力でステンレス事業のコスト競争力を高め、次の能力拡張に資金を投じるのが青山のビジネスモデルであり、肝となる『RKEF+AOD』はインドネシア工場でも展開している。

 現状の青山のステンレス粗鋼生産能力は中国700万トン、インドネシア200万トンで合計900万トン。インドネシアで年内にも300万トンに増強し合計1千万トン体制にして、25年までに1200万トンに拡大する絵を描く。実生産でも20年に1千万トンの達成を目指す計画だ。

 青拓には200系に適した低品位NPI用の高炉もあり、製鋼工場には100トン級、75トン級の電炉・AOD・LF設備が多数立ち並び、粗鋼能力は370万トン、熱延能力は300万トン。14年に稼働開始した主力の広幅熱延ミルは粗圧延機と8スタンドの仕上げ圧延機で構成。冷延は浙江甬金、宏旺実業との合弁がそれぞれあり、自社工場の既存設備に旧SKS(上海ティッセンクルップステンレス)からの購入設備を加えて合計240万トンを構築するという。棒鋼・線材の能力は180万トンで中国市場の60%シェアを握るそうだ。

 製鋼以降の設備は「オーソドックスかつシンプルなプロセスと設備で、そこそこの水準の汎用品を効率よく造ることに徹している」(参加者)。スラブやホットコイルをステンレスメーカーに拡販するのが青山の基本ビジネスだが、「上工程の競争力を武器に下工程のシェア拡大に本気で取り組まれたら、周囲は厳しい価格競争に巻き込まれる。インドネシアのホット輸出拡大も、中国やインドでの冷延事業の本格展開も中国をはじめとするアジア市場の脅威になる」(同)。鋼種では300系が中心でVODプロセスは持たなかったが、「400系も生産しているし、今秋には高純度400系の生産を始める」との発言もあった。

 世界のステンレス粗鋼能力の3分の1が余剰で、他の世界大手が再投資に慎重になる中でも拡張路線は変わらず、青山集団の影響度は中国市場を中心に強大化する一方だ。その影響度に対する危機感が「一流の製品を造り、需要家と共同で機能や使い方を追求し、技術・製品・用途開発で先を行く」(関係筋)先発メーカーの背中を押す構図となっている。

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