「驚き、恐怖、そして恨み」核実験場爆破で北朝鮮庶民

北朝鮮は24日、咸鏡北道(ハムギョンブクト)吉州(キルチュ)郡豊渓里(プンゲリ)にあった核実験場を爆破、廃棄した。

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は28日に掲載した論評「われわれが定めた時間通りに進み続けるだろう」で、世界各国のメディアが核実験場の爆破について大きく伝えたことに触れた上で、「われわれの北部核実験場廃棄宣言を大勇断だと驚いた世界は、透明性が確固に保証されたその実行過程を見て、揺るぎなきわれわれの実践力にさらに驚愕している」と自画自賛した。

報道で核実験場の爆破を知った北朝鮮国民からは、様々な反応が出ている。まずは「驚き」だ。

咸鏡北道のデイリーNK内部情報筋は、「本当に爆破するのか」と半信半疑で見ている人がほとんどだったが、「爆破は小規模と思っていたが、予想より破壊の範囲が大きい」とささやきあっていると伝えた。

豊渓里の核実験場は、国際社会からの厳しい制裁にもかかわらず、6回の核実験が行われたところだ。徹底的な管理が行われており、部外者の立ち入りは厳しく禁じられている。そのため現地の人々は、核実験場の在り方は体制の存立と直結しているとの認識を持っていたようだ。

それだけに、爆破規模の大きさと合わせて、外信記者が現地入りして爆破の様子を取材したという話が広がるにつれ「実に不思議なことだ」「何やら大事が起きつつあるようだ」と見ている人が多いという。

北朝鮮当局は2008年6月、平安北道(ピョンアンブクト)寧辺(ニョンビョン)の原子炉の冷却塔を爆破したが、「あの時のような演出ではなく、今回は桁違いだ」「破壊の範囲を見ると、復旧は考えづらい」という見方が大勢を占めているというのが情報筋の説明だ。

変化に対する期待と不安が入り混じった反応と同時に、核開発を推し進めてきた金正日総書記、金正恩党委員長への恨みつらみや、放射能汚染の恐怖に関する話も広がっている。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、息子が豊渓里で働いていたという人の話として「あそこで駐屯していた兵士たちは、皆が病人になった」「息子は寿命が縮み、一生病気を抱えて暮らすことになった」と伝えた。

咸鏡北道の別の内部情報筋も「これまで『人民の生活を顧みず、昼夜を分かたず武器ばかり作り続けていたのに、三代目(金正恩氏)になって、少しはいい格好をしようとしているのか』と露骨に不満を示す人も多い」と述べた。

同時に「『軍隊招募(徴兵)で息子が豊渓里送りになるかもしれないと思い、不安で(軍の担当者に)ワイロを渡したりしていたが、ようやく気が楽になった』という人も多い」と伝え、北朝鮮国内でも豊渓里で「汚染された危険な場所」という認識が広がっていることがうかがい知れる。

根拠のない心配ではない。毎日新聞は今年1月、豊渓里付近に住んでいた脱北者2人に、染色体異常が生じているという調査結果を報じている。また、ウラン鉱山で働く労働者の平均寿命が他の地域に比べ著しく短く、放射能汚染によって肢体の不自由な新生児の出産も多発しているという情報もある。

しかし、北朝鮮国民に「豊渓里の真の実情」が正しく伝わっているとは言い難い。豊渓里のそばにある政治犯収容所「16号管理所」(化成強制収容所)の収容者が、防護服なしで核実験場で働かされているとの証言があるが、釈放が一切認められない完全統制区域であるため、実際に行われているであろう人権侵害を目撃し、証言する人が誰一人としていないからだ。

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