今また米国で

 英国などには美声でさえずる「ブラックバード」という鳥がいる。ビートルズにその鳥を題名にした曲がある。1950年代からの米国の公民権運動を支持して作られたという▲ポール・マッカートニーがささやくように美しい旋律を歌う。〈ブラックバードが真夜中に鳴いている/折れた翼で飛ぼうとして/事を起こす瞬間を君は待っていた〉▲黒人の公民権運動もベトナム反戦も肌身で感じた世代ではないが、世界的なうねりになった歴史ならばいくらか知っている。90年代には経済格差に怒る声が広がった。その米国で今また、社会運動が盛んらしい▲高校で銃の乱射事件があり、銃規制を訴えるデモには何十万もの人が集まった。女性や性的少数者への差別、移民の排除と、物申すことは山とあり、ソーシャルメディアで輪を広げている。ここ2年のうちに米国人の5人に1人がデモや集会に参加したというから、社会に根を下ろした動きだろう▲人種差別をなくせと訴えたキング牧師が凶弾に倒れて今年で半世紀になる。時を経ても、折れた翼で飛び立とうとする人がいて、さあ今だ-とそばで声を掛ける人がいる▲牧師は言った。〈沈黙するとき、われわれの命は終わりに向かい始める〉。訴え、支え続ける声が翼の揚力になるのだろう。遠い国の話ではきっとない。(徹)

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