【電力の域外調達、鉄鋼業界でも】長野の鍛造メーカー「コミヤマ」、電力費年数千万円減少 東電系へ切り替えで

 電力調達を域外の電力会社に切り替える動きが鉄鋼業界にも出始めてきた。東日本大震災以降、電力料金が高止まりする中、域外調達によって電力購入コストが下がるケースがあるためだ。長野県の鍛造メーカーでは域外調達によって年間数千万円のコストダウンを実現。浮いた資金で設備投資を上積みしたり、設備稼働時間の延長によって生産性向上につなげたりと、域外調達を攻めの経営に生かしている。

 産業機械部品などを製造する鍛造メーカーのコミヤマ(本社・長野県小諸市、社長・小宮山喜之助氏)は昨年9月、契約更新のタイミングで、電力の購入先を元の電力会社から東京電力ホールディングス(HD)グループのテプコカスタマーサービス(TCS)に切り替えた。TCSの提案で電力料金が大幅に下がることが分かったからだ。

 コミヤマは鍛造設備や機械加工設備で電気を大量に使う。電力会社からは「特別高圧」で受電している。震災後は、電力料金高騰に加え、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)による賦課金負担が深刻化。電力購入コストをできる限り抑えようと、生産調整を余儀なくされるケースもあった。ピーク電力が契約電力を超えてしまうと、翌年の契約電力が引き上げられてしまうからだ。生産調整の結果、注文に応じられないこともあったという。

 TCSは東電の小売り事業で培ったノウハウを生かして、割安な電気を調達できるのが強み。この競争力の高さを生かして、コミヤマに対しても割安な基本料金を提案した。

 TCSへの切り替えからまもなく1年。コミヤマでは年間の電力購入コストは数千万円規模で安くなる見込み。この結果、ピーク電力を気にしなくて済むようになり生産調整も不要になった。同社はコスト削減を生かして、生産設備の増強を計画。また、設備の稼働時間を延長できるようになり、結果的に生産性が高まったという。

 大手電力の越境販売は2000年に解禁されたが、これまではさほど普及してこなかった。ここにきて域外調達の動きが広がっているのは、震災後の電力料金高騰によって、需要家の側に割安な電力を調達しようという機運が高まっているためだ。16年の電力全面自由化後、電力会社の競争が一段と激化し、各社が域外販売に力を入れ始めたことも大きい。

 TCSは東電グループの中で域外販売を担当しており、中・小規模事業者などへの営業を強化している。電力を大量に使う鉄鋼・金属業界は、調達先の切り替えによるメリットが大きいとみられ、今後も域外調達の動きが広がりそうだ。

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