【関西鉄鋼業の展望と課題】〈(1)成長戦略〉加速する海外展開 地区需要減に対応、大型投資も

 内需減、さらには東京一極集中に伴う地盤沈下も見られる関西経済。その中で、関西鉄鋼業各社はどう成長戦略を模索し、課題に対応するのか。現状を探った。

 独自に海外市場の需要を捕捉しようとするのは、関西鉄鋼業における特徴ある動きの一つだ。

 溶接鋼管最大手の丸一鋼管。4月から新中期経営計画をスタートした。計画は、国内事業での収益力強化と海外事業での売上高・収益拡大が主要な柱。海外事業の拡充で「成長戦略」を展開する。

 海外事業はベトナム・インド・米国・メキシコの4カ国・連結グループは9工場、中国、インドネシアの持ち分法適用会社を含めると16工場になる。

 連結グループ9工場は、建材向け鋼管がベトナム1(めっき鋼板・カラー鋼板含む)、米国3(うち1工場はエネルギー向け鋼管も生産)。自動車・二輪車向け鋼管がベトナム1、インド2、メキシコ2。2019年春にはフィリピンでも自動車・二輪車用鋼管工場を新規稼働させる。

 電炉大手の共英製鋼は5月、ベトナム北部の電炉メーカーを買収した。同国で3工場目になる。米国でも昨年末、テキサス州で電炉工場を買収した。いずれも鉄筋棒鋼が主力の工場で、国内グループ4工場の年産170万トンと合わせ世界年産340万トン体制となった。近い時期にベトナムの能力を引き上げ、世界年産400万トン体制にしていく。

 同社によると、ベトナムの鉄筋需要は年間1100万トン。日本の約1・4倍で、鉄筋コンクリート造の個人住宅が増えており、需要はさらに増える見通しだ。特にハノイ周辺など北部の需要が拡大しており、同社は北部で2工場を確保して需要を捕捉する。

 形鋼大手の大阪製鉄もインドネシアで形鋼・鉄筋メーカーを今年1月に稼働させた。同国は電力・道路などインフラ整備を急いでおり、大鉄も送電鉄塔向けなどの需要を捕捉し、早期に年産50万トンに引き上げる計画だ。

 溶接金網最大手のトーアミ(大阪府四條畷市、社長・北川芳仁氏)は4年前、合弁会社の「SMCトーアミ」をベトナムのバリアブンタウ省に設立した。同社初の海外拠点で溶接金網などを製造する。

 今年に入り、既存需要だけでなく認知度向上から新規顧客が増加している。さらに現地大型建材店からの引き合いも堅調で、北川社長は「本格的に成長軌道に乗り出した」と話す。トーアミの溶接金網シェアは日本で約20%とされ、国内で培ったノウハウを駆使し、ベトナムでも拡販に努める。

 鉄鋼流通において、コイルセンター(CC)業は品質・生産性向上のための設備更新が欠かせない。近年は投資も活発さを増すが、特に熱延CCは設備規模が大きく、投資が拡大する傾向にある。

 三協則武鋼業(堺市、社長・北眞一郎氏)は16年5月、約50億円を投じ新本社工場を稼働した。レベラーを1ライン増設し、加工板厚1・2~6・0ミリのライトレベラーおよび板厚3・2~16・0ミリのヘビーレベラーを設置。また、同工場にはシャーリングマシンも11基あり、同社はレベラーおよびシャーリング加工が単一工場でできる関西唯一の熱延系CCともなっている。

 これまでレベラーの月間加工量は旧工場で約8千トンだったが、新本社工場稼働後は徐々に生産性が向上。足元は月1万4千トン水準にまで増やしている。

 三幸金属工業所(堺市、社長・楠本雄宏氏)は昨年11月、本社工場(大浜鉄鋼センター)に約17億円を投じ超大型レベラーを立ち上げた。生産効率と安全性を重視したレベラーで、母材コイルをレベラー入側で同時に四つセットできるだけでなく、製品シートを効率的に自動結束・梱包処理できるよう、パイラー部も大型化した。

 生産効率向上に伴い、3号レベラーで実施していた2交代勤務をやめた。生産性だけでなく、「お客様からの品質評価も高まっている」(楠本社長)という。

 同社はこのレベラー更新に先立ち、15年9月にはコイルヤードの「大浜第2鉄鋼センター」を開設。これで本社工場の母材コイルを移設でき、新レベラーの増設が可能となった。これを含めると生産効率・品質向上に計30億円近い資金を投じたことになる。

 熱延CC老舗の大阪鋼圧(大阪市、社長・稗田英紀氏)も約10億円を投じ、新スリッターを昨年末に立ち上げた。加工板厚は12・7ミリで、自動刃組み装置および自動梱包機も導入。生産性を高めているのが特徴の一つ。従来機と同様、ハイテン材など特殊鋼も加工でき、生産性の高さを生かし、さらに付加価値の高い加工も幅広く受注して収益力を高めていく。

隣接する事業領域に挑戦/高付加価値化推進、M&Aも

 熱間鍛造用金型向けの工具鋼を中心に販売する特殊鋼流通の南海鋼材(堺市、社長・福原實晴氏)は、金型の材料を販売するだけでなく、金型や治工具の製作も行っている。

 さらに金型のメンテナンスや廃棄金型を回収して鋼種ごとに選別し、特殊鋼メーカーに原料として供給するリサイクル事業を展開。福原社長は「当社が販売の中心とする自動車は、内需縮小に加えEV化で今後構造が大きく変化する。そういった厳しい環境下、金型のゼロ・エミッションのサイクルの中で、存在意義を高めていきたい」とする。

 同社はオリジナル商品の開発にも積極的に取り組む。2010年には金型の予熱装置〝予熱くん〟を開発し、これまで国内自動車メーカー8社などへ120台販売した。

 またPPW(プラズマ・パウダー・ウェルディング)に自社開発した独自システムを搭載したPPW―Nシステムを、12年に開設した堺浜事業所に設置。自動三次元肉盛溶接により金型の高機能化や補修を行う。

 金型の清掃や整備のほか、別会社で産業機械のメンテナンス事業も展開。福原社長は「金型を使っている現場を回っていると、作業員の方がいろいろと困っている場面に直面する。それを解決する一助になればと思い、新商品の開発や新規事業を立ち上げた」と経緯を話す。

 「鋼材の販売業者なので、もともと装置の開発やメンテナンスのノウハウがあったわけではない。現場でヒントを得て、ビジネス化への青写真を描き、ノウハウを持つ人材をリクルートすることで実現していった」と言う。

 薄板CCの秋津鋼材(奈良県大和郡山市、社長・北雅久氏)は、2種類の異なる金属を貼り合わせた鋼材「クラッド鋼板」の加工に取り組み始めている。得意の極薄加工技術を生かし、昨年からクラッド鋼板の加工を開始。当初は月産数十トン程度だったが、電気自動車などで需要が増えているリチウムイオン電池向けなどで加工量が拡大している。

 同社の極薄加工は「切断面」および「破断面」を0・1ミリ単位で整えられるのが特徴で、極めてシビアな溶接が要求される分野などでニーズがある。鋼板の切断面には刃物で切る「切断面」のほかに、鋼板自身の重みで切れる「破断面」が生じるが、同社はコイルのはじめから終わりまで「切断面」および「破断面」を同じ割合かつ0・1ミリ単位で切れる。

 こうした技術を活用したステンレス、クラッド材などの極薄特殊加工は、同社の月産量に占める割合は低いが、トン当たりの加工賃が高く、収益源の一つに成長し始めている。

 M&Aで事業領域の拡大に取り組むのがステンレス流通の三榮(大阪市、社長・佐伯清孝氏)。同社は13年に販売先の事業を引き継ぎ、懸垂幕(建物などの高所から下げる広告や標語などを印刷した垂れ幕)事業をスタート。翌14年にはステンレス線材流通の豊物産を子会社化した。さらに昨年5月にステンレスコイルセンター、広栄工業の営業権を譲り受け、南港ステンレスセンターとして活用している。

 佐伯社長は「いずれのケースも当社が積極的にM&Aに動いたわけではない。銀行などを通じ頂いた話を検討し決断した」とする。

 今後については「従来通りM&Aに積極的に動く考えはない」とするが「後継者難から今後、事業継承問題は増えてくるだろう。当社にとっても事業継承は大きな課題なので、販売や技術、財務など企業体質を強化できそうな話であれば、ケース・バイ・ケースで検討してきたい」とする。

 M&Aのシナジーについては「懸垂幕事業は、装置の製作だけでなく、現場での取り付け工事も請け負うことになったので収益が安定している。豊物産も安定した収益があり、仕入れ面での人脈が広がった。南港ステンレスセンターは奈良の三榮ステンレスセンターと連携し効率化を進め、扱い商品も増やしている」とし、一定の効果を得ている。

 磨棒鋼業界もM&Aの動きが加速している。磨棒鋼メーカーの太平鋼材工業(大阪市、須田哲郎社長)は昨年末、磨棒鋼問屋のシャフトセンター(東京都)の発行済み全株式を取得し、グループ化した。太平鋼材工業の関東地区の営業拠点は3拠点となり、グループ力を生かし販売強化を進めている。

 磨棒鋼流通最大手の大博鋼業(大阪市、山口毅社長)も今年2月に同業の九伸販売(福岡県)を統合した。それに伴い、福岡営業所を5月に統合移転。大博鋼業は九州地区で、自動車向けだけでなく中小規模物流倉庫向けの搬送ローラーや省力化ロボット向けなどの営業を展開している。

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