点検作業ドローンで代行 横須賀市、民間と研究

 全国で社会インフラの老朽化が進む中、横須賀市は民間企業と共同で、下水処理施設内の点検にドローン(小型無人機)を活用する研究を進めている。人が入れない危険な場所でも、配管や設備の劣化の兆候を見逃さずに確認できる。衛星利用測位システム(GPS)が無効な地中深くでも飛行可能な、完全自律型のドローンを目指しており、市は「予算と人員が限られた中で、安全性の確保や精度の向上、コストの削減につながれば」と期待を寄せている。

 下町浄化センター(同市三春町)で5月下旬、完全自律型のドローンの飛行実験が行われた。

 「ブーン」。下水処理用の配管が集まる「管廊(かんろう)」と呼ばれる狭い地下通路を、カメラを搭載したドローン(縦・横57センチ、重さ3・8キロ)が飛行する。カメラで居場所を推定し、障害物も察知しながら、目標物の配管に沿って進む。2分半で約150メートル進み、着地した。

■進む老朽化

 市内にある下水道処理施設は老朽化が深刻だ。同センターは運転開始から49年、上町浄化センター(同市公郷町)は52年が経過している。こうした状況は全国でも同様で、約2200ある下水処理施設のうち、7割を超える約1600施設が供用開始から15年を越えているという。

 一方で、施設内の点検は、目視など作業員の「五感」に頼るのが主流で、精度にばらつきがあるのも事実。限られた予算をやりくりし、いかに適正に維持・管理するかは、どの自治体にとっても大きな悩みだ。横須賀市も「効率的かつ経済的で、精度の高い保全管理が必要」と危機感を募らせる。

 施設だけでなく、足元でも老朽化が進んでいる。張り巡らされた下水管は全国で約47万キロ。その長さは地球12周分に当たる。多くが高度経済成長期か、それ以降に埋設されており、老朽化の目安の50年を越える下水管が今後、加速度的に増える見通しだ。横須賀市も例外ではなく、総延長1349キロのうち、約4%の約50キロが耐用年数を超過しているという。

■軽量化が課題

 こうした現況を改善できる方策として、市が期待を寄せるのが、コンサルティング会社「NJS」(東京都港区)が開発を担当するドローンだ。職員に代わり、配管や設備の劣化をチェックすることができれば、職員の安全を確保しつつ、従来より精度の高い点検ができ、改修する場所に優先順位付けもできる、まさに“一石三鳥”の手法になる。同社の谷戸善彦技師長は「汚泥を発酵させるタンクは硫化水素などのガスが発生するため、人が入るのは危険。ドローンは極めて有効」と胸を張る。

 目下の課題は機体の軽量化だ。管廊のような狭小空間を自在に飛行するためには小さな機体が適している。ただ「『0・5ミリ幅のひび割れを確認したい』というニーズがあると、カメラの性能を上げる必要があり、カメラが重くなれば、小さな機体では搭載できなくなる」(同社)。点検の精度向上と軽量化の両方を達成するため、同社は今後も実験を繰り返し、改良を加え、将来的には地中の下水管内の点検にも活用したい考えだ。

GPSが無効な地下空間で自律飛行するドローン=横須賀市三春町の下町浄化センター

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