金属行人(6月5日付)

 日本の製鉄所で鋼材を積み込み米国へ向かった輸送船が西海岸の沖合で立ち往生している。現地の輸入業者が高率な輸入関税の支払いを拒否。日本製鋼材は通関できないまま、船上で棚ざらしになっているという。日本の関係者から最近聞いた話だ▼日本が米国へ輸出する鋼材は、米国でつくれないものが大半で、米通商法232条の適用除外となるケースが多いとみられるが、足元では貿易の現場に影を落とし始めている▼232条が発動されてから2カ月余り。安全保障を理由に輸入鉄鋼製品に高率関税をかけるという掟破りの措置は今月、EU(欧州連合)なども適用となり、貿易戦争に発展する懸念が高まっている▼米国の保護貿易政策の狙いは、米企業の保護といわれてきた。1980年代の鉄鋼貿易摩擦しかり、2003年のブッシュ氏(2世)の鉄鋼セーフガードしかり。今回は安全保障の鎧を身にまとってはいるが、狙いは同じだろう▼80年代の摩擦では、その後の日本鉄鋼業の米進出を促し、結果的に日本の鋼板製造技術が米国鉄鋼業に移植された。米側にとって一定の成果があったとみることもできる▼今回はそうした『深謀』はうかがえない。なりふり構わぬ保護政策の後に、米鉄鋼業に何が残るのだろうか。

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