現在フランスで開催されているトゥーロン国際大会。この大会にはU-21日本代表、いわゆる東京五輪世代のチームが出場しており、特に大学生選手の活躍が光っている。高い技術と運動能力で局面を打開する攻撃的MF三笘薫もその一人だ。
そんな彼が所属する筑波大学蹴球部は、昨年の天皇杯で快進撃を見せて話題となったチーム。また、ピッチ外で先進的な取り組みを行っていることでも知られている。
最たる存在である「パフォーマンス局」は、天皇杯で脚光を浴びたデータ班やアナライズ班、ビデオ班のほかパフォーマンスを最大限発揮するための“心”をサポートするメンタル班など、計8つもの班が活動中。
さらに、「自主管理」「自主運営」をテーマに自分たちですべてを賄う筑波大蹴球部では、実はスポンサー獲得までも学生選手が自分たちで行っている。今春にこのようなプレスリリースがメディアに向けて配信された。
新たに7社の企業とのスポンサー契約で合意したというリリース。これにより、ユニフォームスポンサーは昨年までの1社(ジョイフル本田)から5社へと増えた。スゴイ!
こうした動きの中心となっているのが、筑波大学蹴球部のプロモーションチームだ。大学サッカーに新風を吹き込んでいる彼らにコンタクトを取り、実際の活動について聞いてみた(写真:筑波大学蹴球部)。
セールスチームからプロモーションチームへ
――まずはどういった経緯で筑波大学蹴球部に「プロモーションチーム」が生まれたのでしょうか?
2017年ごろより筑波大学内でのスポーツの産業化の動きが活発となり、スポーツ庁による日本版NCAAの設立や学内のAD(アスレチックデパートメント)発足に向けた動きが実際に学生の耳にも多くはいってくるようになりました。そうしたなかで、筑波大学蹴球部としても自らの価値をより外へ発信し、アピールしていく必要性を感じ、まず、新規のスポンサーを探すことを目的に筑波大学蹴球部セールスチームが2017年6月に発足しました。
スポンサー獲得活動を実際に学生で続けていくなかで、様々な困難があり、試行錯誤を繰り返し、10月ごろにはいくつかの企業様と具体的な話をすることができるようになりました。様々な企業様とお話をさせていただくなかで、どうしたらより私たちの価値を伝えられるか、スポンサーとはどのようなものなのか、応援してもらうとはどういうことなのか。それらを考えたときに、私たちはセールスチームからプロモーションチームへとアップデートし、より広い視点から、筑波大学蹴球部の価値向上を目指すことにしました。
セールスチームとしてやってきたことに、これからの可能性を感じ、大学サッカー界、大学スポーツ界、つくば地域に対しても私たちは何かできるのではないかという大きな伸びしろを感じ、プロモーションチームと名前を変え、挑もうというわけです。そうしたほうが面白そうだ、という雰囲気がメンバーのなかに漂っていました。
スポンサーは現在14社
――今年3月、これまでのジョイフル本田に加え、新たに7社とスポンサー契約を結んだことを発表しました。その後も増えているようですが、実際に今、何社とどのような契約を結んでいますか?
パートナープランとして3つを用意しています。ゴールド(ユニフォームへの広告露出)、シルバー(トレーニングウェア・ビブスへの広告露出)、ブロンズ(物品・サービス提供)という形でジョイフル本田様を含めて計9社のロゴを背負って今シーズンは戦っています。ブロンズパートナーを含めると、計14社と契約しています。
具体的な企業名は以下の通りです。
【ゴールドパートナー】
・株式会社ジョイフル本田(ユニフォーム胸)
・一誠商事株式会社(同背中)
・株式会社カスミ(同裾)
・トヨタカローラ南茨城株式会社(同左袖)
・株式会社Take Action´(同パンツ)
【シルバーパートナー】
・手造りどら焼き専門店「志ち乃」(トレーニングウェア左袖)
・株式会社住ゴム産業(同右袖)
・クルマ買取専門ディーラービッグインパクト(ビブス前面)
・お持ち帰り処「仲々」(同後面)
【ブロンズパートナー】
・大塚製薬株式会社
・大塚ウエルネスベンディング株式会社
・株式会社Progate
・ヤトロ電子株式会社
・株式会社クロノファクトリー
※2018シーズンユニフォーム
――一部のJクラブより充実しているかもしれませんね。具体的にどのような流れで契約にまで至るのでしょうか?
基本的に学生中心に話し合いを進め、アタックリストの作成からプレゼン、契約書の作成、調印式、プレスリリースに至るまでを行いました。メンバー誰もが初めての経験なので、OBの方々にアドバイザーとしてチームに入っていただき、壁にぶつかった際は指導していただきました。
アタック企業リスト作成・セールスシート作成
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電話・メールにてご連絡
↓
訪問・プレゼン・コラボ企画の打ち合わせ
↓
具体的な契約内容の詰め
↓
契約書の作成・製本
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調印式の実施
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プレスリリース作成
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プレスリリース配信
アタックする企業ごとに部員のなかから担当者を決め、契約締結まで責任をもって実行しました。部員にとっても、非常に貴重な経験となりました。
※手造りどら焼き専門店「志ち乃」との調印式の様子
※株式会社住ゴム産業との調印式の様子
――やはり、実際にお金を出してもらうことは大変だと思います。どんな苦労がありましたか?
最初の3カ月くらいはどの企業にも振り向いてもらえず、不安しかなかったです…。
また、当初はビジネスメールの書き方も知らない状態の部員が多く、かなり時間をかけてメールを作っていました。本当にゼロからのスタートでした。
「10年後、大学サッカーの平均観客数を1万人に」
――スポンサー名が入ったユニフォームやトレーニングウェアを着ていると、気持ち的にもやっぱり違いますか?
「まったく違います。応援していただいているスポンサーの方々への責任という意味でもそうですが、チームメイトが頑張って取ってきたものなのでJクラブなどのスポンサーともまた違う意味合いがあります。とても重みを感じています」(4年主将:小笠原佳祐)
「支えていただいているということを常に感じながらスポンサーの方々の期待に応えたいという気持ちでプレーしています!」(3年:山川哲史)
――スポンサー獲得以外の活動もありますか?
現在は、私たち蹴球部の周囲に存在している「応援」をより見えるようにしていく、「応援」というあいまいなものを枠組みとして再定義していこうとしています。そのために、スポンサー獲得活動のほかにファンクラブ設立に向けたクラウドファンディング・パウロメイト普及活動の三つを軸に、活動に取り組んでいます。それらをもとに、蹴球部を取り囲む人の動きを作ろうとしています。
昨年度はありがたいことにスポンサーの部分で結果を出すことができました。今年度は、ファンクラブ設立に向けたクラウドファンディングを行っています。世の中一般的なファンクラブ像とは一味違う、学生スポーツならではのファンクラブの在り方を提案したいと思います。
ファン=「応援してくださる方々」という捉え方で、ファンと現役蹴球部が協力してファンクラブを創り上げることを目指します!クラウドファンディングの期間は6/11までで1600人の0期会員の獲得が目標です。
さらには、蹴球部を応援してくださる「パウロメイト(応援店舗)」の募集活動を行っています。部員が直接大学近辺のお店を回り、ご賛同いただいたお店に蹴球部のペナントを置かせていただきました。
他にも、ADなどの大学内の動きに敏感に対応できるように勉強会をしたり、毎週のミーティングで、方針の確認や戦略を練ったりしています。新しい活動案が出てくれば、その都度取り組んでいく予定です。
――そもそも蹴球部員だけでどうやってプロモーションチームを運営しているのでしょうか?
プロモーションチームのメンバーは、全員有志で集まっています。プロモーションチームとしてメンバー全員に課せられていることは最低1つの企業の担当者となり、セールスから契約内容・コラボ企画の実行までを行うことです。
その他の活動である、ファンクラブやパウロメイト、AD関連などは、やりたい人・面白いと思った人が積極的にプロジェクトを立ち上げ、活動することにしています。
アドバイザーとしてOBの方々にいつでも質問できる状態にしています。週一回のミーティングで各企業担当者や各プロジェクトの進捗状況も共有しています。
――そんな蹴球部プロモーションチームとして、目指しているところは?
「筑波大学蹴球部の価値向上」というのがプロモーションチームの活動の根幹になっています。
そして、「10年後に大学サッカーの平均観客数を1万人にする」という大きなビジョンを掲げ、そこから逆算して今何ができるのかを考えています。
クラウドファンディングでのファンクラブ設立
――先ほどクラウドファンディングを行っているとうかがいました。今どのような状況ですか?
「日本初!大学サッカー部公式ファンクラブ誕生。筑波蹴球部の挑戦」ということで、ファンクラブの設立に向けて、1600人の0期会員を獲得するためにクラウドファンディングを行っています。
現在、達成率は75%で(6月4日現在)、あと7日で約400人の0期会員を集めなければなりません。All or nothing形式をとっており、1600人に達成しなかった場合、ファンクラブは設立しません!
学生スポーツのファンクラブの在り方を提案しています。プロクラブやミュージシャンのそれのようにお金を払うことでの差別化ではなく、応援している人はみんなファンクラブの会員であるというのが理想です。応援しているかしていないかでの差別化を図ります!
――なるほど。最後に、筑波大学蹴球部としての今後の目標を教えてください!
サッカーの結果としては、もちろん目指すのは「日本一」です。
そこに加えて、「ピッチ外でも筑波大学蹴球部は日本一」と思ってもらえるような活動をしていきたいと思っています。
「ピッチ内外での日本一」を目指して、これからも精力的に活動していきます。
※筑波大学蹴球部プロモーションチームのメンバー。学生代表は藤尾悠河(3年)。
ちょうど昨今は、大学スポーツについて様々な話題がメディアでも取り上げられている。旧態依然とした大学スポーツを取り巻く環境はいよいよ時代にそぐわないものとなっており、その歪みが悲しい形で表れたのが先日のアメリカンフットボールでの“事件”だった。
これを受けて、筑波大学は5月31日、「我が国の大学スポーツの革新に向けて」というリリースを発信。国内の大学で初のアスレチックデパートメント設立に向けて動いている同校が、改革に向けて明確な意志を示した。
そんな筑波大学のなかでも、蹴球部は革新的な取り組みをいくつも行っている。彼らが踏み出す一歩一歩が、どのような未来につながっていくのか。こうした時期だからこそ実際の彼らの歩み、そしてその成り行きに注目していきたい。