「空気」の力

 「空気を読む」と言うときの「空気」には、えもいわれぬ力があるらしい。評論家の山本七平さんは40年前に書いた。〈「空気」とはまことに大きな絶対権をもった妖怪である〉(「空気」の研究)▲空気にあらがう人を〈「抗空気罪」で社会的に葬るほどの力をもつ〉とまで書いている。おっかない話だが、時にそれほど人を圧するのかもしれない。決算文書の改ざん問題で、財務省は20人の処分を発表した。改ざんにはどうやら濃密な「空気」が絡んだらしい▲森友学園を巡る決裁文書を、当時の理財局長が「外に出すべきではない」と言った。部下の課長らはこれを「書き直せ」という意味に受け取った。空気を読み、さっと動く。「絶対権をもった妖怪」の暗躍である▲国会での追及をかわすためであれ、首相への忖度(そんたく)であれ、行政府が文書をいじり、廃棄して立法府をだますとは、悪質の極みというほかない。「抗空気罪」で葬られるのに比べたら、改ざんくらい造作もない-と思ったかどうか▲「空気というやつかもしれませんが、ちょっと分からない」。麻生太郎財務相は首をかしげたが、改ざんの動機を「さあね」と言って済ますに等しかろう▲国民の信頼を損ねたのは、財務省に限らない。自分たちへの信頼はどうか、と政権こそが空気を読むときだろう。(徹)

© 株式会社長崎新聞社