国民投票と住民投票の違いを解説。「国民投票」は憲法改正でしか実施できません

自民・公明両党は、駅や商業施設等への共通投票所を設置するなどの改正案を盛り込んだ国民投票法の改正案の審議を今月末にも開始したい考えであることを表明するなど、憲法改正の議論が進む中で、「国民投票」について話題に上る機会が増えてきました。

また、2015年には大阪都構想の是非を問う大規模な住民投票が実施されて否決されましたが、大阪維新の会のメンバーである府知事と市長が協力して、再度住民投票を実施しようと進めています。

そこで、衆参両院の国政選挙や首長・地方議員選挙のように政党や個人を選ぶ選挙以外に、政策などを選ぶ投票にはどのようなものがあるのか見ていくことにしましょう。

国民投票の対象は「憲法改正のみ」に限定

1947年の施行以来1度も改正されていない日本国憲法ですが、憲法第96条に記載された改正の手続きを定めた法律すら長らくありませんでした。

2007年になって「日本国憲法の改正手続に関する法律」(国民投票法)が公布され、2010年に施行されたのは、憲法の施行から63年後。その後2014年にいくつかの条項が変更され現在に至っています。

国民投票法のおもな内容をピックアップしてみます。

・国民投票の対象は憲法改正のみに限定
・投票権は18歳以上の日本国民(2018年6月20日までは経過措置として20歳以上)
・憲法改正原案は、衆議院100名以上、参議院50名以上の議員の賛成で国会に提出できる
・投票方法は印刷された「賛成」または「反対」の文字のどちらかに○をつける
・投票総数(無効票を除く)の過半数の賛成で憲法改正案が成立
・最低投票率制度は設けない

住民投票が行われるケースは主に4ケース

国民投票は「憲法改正のみ」でしたが、住民投票は主に4つのケースで行われます。以下、順番に見ていきましょう。

1. 憲法第95条で定める「特別法」制定と実質的な内容の変更を伴う改正

憲法第95条では、国会が特定の地方自治体にのみ適用される特別法を制定する際には、自治体の住民投票で過半数の賛成が必要と定められています。これに該当するケースには、1946年に公布された戦後の都市復興を促進するための「特別都市計画法」があります。

1950年から1951年にかけて、広島、長崎といった原爆の被害都市、横須賀、呉、佐世保、舞鶴の軍港があった都市に加え、観光を通して国際的な文化親善を図るための「国際観光文化都市」として、別府、熱海、奈良、京都などを対象に制定されました。
特別法について住民投票が実施された過去19の例では、いずれも国が自治体に財政的優遇措置を与える内容だったため、すべての特別法が住民投票による賛成多数によって成立しています。

なお、1955年に特別都市計画法が廃止された後は、現在に至るまで住民投票を経た憲法第95条に基づく特別法の制定の例はありません

2. 地方自治法による議会の解散、議員・首長のリコール

地方自治体の住民が、議会の解散や首長・議員の解職を請求する場合には、地方自治法の規定により住民投票が行われます。

手順は、発起人や住民団体が有権者の3分の1以上(自治体の有権者の数によって異なる)の署名を集めて選挙管理委員会に請求。請求が有効と認められると60日以内に住民投票が行われ、有効投票数の過半数が賛成すればリコール成立となり、議会の解散や首長・議員の解職が成立します。

この中には鹿児島県の阿久根市のように、相次ぐ選挙とリコール合戦によって、地域の住民の対立と疲弊を生んでしまったケースもあります。

参考:阿久根市のリコール合戦
2008年に阿久根市長に当選し「ブログ市長」として知られていた竹原信一氏が市議会と対立、翌年の市議会による不信任決議によって失職しました。その後の出直し選挙で当選し市長に返り咲きましたが、2010年に市民団体によりリコールが行われ、住民投票において賛成票が過半数を占めたため市長を再度失職しました。竹原氏は2011年の市長選挙に再び立候補しましたが、リコールを請求した市民団体の元監事の西平良将氏(現市長)に敗北しました。

しかし今度は竹原派の市議によって市議会解散のリコールが起こされ、こちらも住民投票によって成立、阿久根市議会は解散します。それに伴う市議会選では、竹原派が目標とする過半数の議席を確保するには至りませんでした。竹原氏は2014年12月の市長選にも再度出馬しましたが、現職の西平氏に3000票以上の大差を付けられ落選しました。

3. 「大都市地域における特別区の設置に関する法律」による住民投票

橋下徹氏が代表を務めた大阪維新の会の「大阪都構想」を想定して、2012年に成立した「大都市地域における特別区の設置に関する法律」(大都市地域特別区設置法)においても、住民投票での過半数の賛成が制定要件となっています。

大都市地域特別区設置法とは、政令指定都市と隣接自治体の人口が計200万人以上の地域が、市町村を廃止して東京都の都区制度のような特別区を設置することができるという法律です。

この法律を基に2015年5月に、日本の政治史上最大級の住民投票となる「大阪市特別区設置住民投票」が実施されましたが、結果は僅差で否決となりました。投票結果を受け、橋下徹大阪市長は任期満了後に政界から引退しました。

同年11月に行われた大阪府知事選と大阪市長選のダブル選挙では、大阪維新の会の松井一郎氏と吉村洋文氏がともに大差で当選。これを受けて大阪維新の会では、2018年秋に大阪都構想の是非を問う再度の住民投票の実施を目指すとしています

4. 住民投票条例による住民投票

地方自治体の住民による「住民投票条例」制定の請求があった場合や、地方自治体自らが住民の意思を問うために条例を制定する場合に、住民投票が行われるケースもあります。
近年では、住民自治に基づく自治体運営の基本原則を定めた「自治基本条例」の中に、住民投票の規定を設ける自治体も増えています。

住民投票条例では、公職選挙法に準拠しないことから、永住外国人に投票権を与えたり、選挙権が与えられていない年齢でも投票できたりと、投票対象や投票資格者を自由に制定することができます。一方、首長や議会に対して拘束力を伴わないことも多く、投票結果と反する政策決定が行われた場合には、住民によるリコールへとつながるケースもあります。

条例の内容としては、合併の賛否や枠組みを問うものが最も多く、国や都道府県の施策の是非を問うものなど、地方自治体の重要な問題に関して民意に諮られています。

過去の例では、1996年8月に新潟県西蒲原郡巻町(現在の新潟市西蒲区の一部)が、原子力発電所計画の是非を問う、条例制定による日本初の住民投票を行いました。反対派が約60%を占めて勝利し、その後原子力発電所計画は撤回されました。

同年9月には沖縄県で、「日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小に関する県民投票条例」により県民投票が実施され、賛成票が投票総数の89%を占めましたが、沖縄県における基地負担は現在に至るまで続いています。

民意を政治に直接反映できる機会

以上見ていった通り、国民投票や住民投票は、わたしたち一人ひとりの民意を政治や政策に直接反映できる貴重な機会です。

「低投票率で民意が反映されていない」という状況になれば、国民主権を自ら放棄しているようなもの。ぜひとも投票に参加しましょう!

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