【新日鉄住金グループ企業の〝今〟(29)】〈日本鋳鍛鋼〉大型高級鋳鍛鋼で世界有数 火力不況の難局に挑む

 日本鋳鍛鋼は火力・原子力発電用蒸気タービンロータ軸の生産本数で世界首位。その本社工場は新日鉄住金・八幡製鉄所(戸畑地区)に立地する。1970年に新日鉄、三菱製鋼から一部設備、技術の移管を受けて設立され、71年に本社工場の操業を開始した。現在の出資構成は新日鉄住金グループ45%、三菱グループ55%で、火力・原子力発電用タービンロータ軸など電力用鍛鋼品が売上高の約6割を占める。長尺の大型鍛鋼品が得意で、鉄鋼圧延用補強ロール(BUR)でも世界有数のポジションを占める。

 本社工場の設備群や仕掛品、製品の巨大さは圧巻だ。製鋼工場では世界最大級の650トンまでの鋼塊を製造できる。650トン鋼塊の鋳込み時間は1時間超だが、その前に複数の取鍋に必要な溶湯を溜めるのに何時間もかかる。一例を挙げれば、適切な温度管理、炭素及び合金含有量さらに不純物量の管理なくして大型鋼塊を製造することは不可能であり、上工程の技術競争力が製品競争力に直結する。特殊溶解では世界最大の引抜式145トンESR(エレクトロスラグ再溶解炉)を稼働している。

 鍛造工場では世界最大級の1万3千トン油圧鍛造プレスをはじめ3基の自由鍛造プレスが稼働。熱処理工場も巨大で、機械工場では400トン大型旋盤、深孔加工機(BTA)などやはり世界有数の大型設備が並ぶ。深孔加工を伴う発電用タービンロータ軸の超大型・長尺製品の対応強化では、今年に入って世界最大級(最大加工能力は胴径3・4メートル×長さ24メートル×重量380トン)の超大型BTAを稼働開始している。

 同社に限らず、電力分野中心の大型鋳鍛鋼メーカーにとって、この10年間の市場環境の変化はあまりに激しかった。同社の場合、2005年度から09年度にかけて策定した3度の中期計画で、総額500億円近い設備投資を実施し、12年度に完了。ロータ軸の大型化・高級化を狙った設備増強は将来を切り拓く上で必要不可欠だったが、リーマンショック後の苦境を切り抜けた矢先、福島原発事故を境に原子力発電を取り巻く環境が一変した。

 近年は再生可能エネルギーの拡大や環境規制強化で火力発電にも強烈な逆風が吹く。火力発電用機器需要は世界的に急減し、ピークの半分以下に縮小。重電業界ではシーメンス、GEなど欧米大手が先行する形で大規模なリストラに踏み切り、同社の親会社である三菱重工業も火力事業の構造転換に取り組む。

 同社は鉄鋼圧延用BURの規模拡大を進めているが、主力の火力向けの落ち込みはカバーできず、17、18年度は2期連続の赤字になる。現状の市場規模でも黒字を維持できる企業体質に変革するため、今年から徹底した固定費削減などの緊急対策に踏み切っている。技術・品質・安全の水準を維持・向上し、現有の鋳鍛鋼製品の安定供給を維持しながら、19年度の黒字化を目指す計画だ。

 火力・原子力発電機器需要の回復は当面見込みにくいが、縮小した市場において技術開発力に長け、コスト競争力があり、高品質製品を安定供給できる大型鋳鍛鋼メーカーの存在感はむしろ重みを増す。世界の同業他社も同様の困難に直面している中で、今はまず苦境を乗り越え、勝ち残ることが重要な課題となっている。(このシリーズは毎週水曜日に掲載します)

 企業概要

 ▽本社=北九州市戸畑区

 ▽資本金=60億円(新日鉄住金42%)

 ▽社長=塩浦信男氏

 ▽売上高=174億円(18年3月期)

 ▽主力事業=火力・原子力用鋳鍛鋼品、鉄鋼圧延用バックアップロール

 ▽従業員数=625人(18年4月1日)

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