【新日鉄住金グループのステンレス鋼板事業統合】〈新日鉄住金ステンレス・伊藤仁社長に聞く〉最適生産体制を構築 自動車用は八幡に集約、高付加価値品開発でもシナジー

 新日鉄住金グループのステンレス鋼板事業統合が決まった。来年4月1日をめどに新日鉄住金ステンレスが日新製鋼のステンレス鋼板事業と新日鉄住金のステンレス鋼板事業を継承する。どんなシナジーを期待し、どんな会社を目指していくのか? 伊藤仁新日鉄住金ステンレス社長に聞いた。

――今回のステンレス鋼板事業統合の背景にある世界のステンレス業界の現状をどう認識しているのか?

新日鉄住金ステンレス・伊藤社長

 「世界的に見てもステンレスメーカーの業績は好転しているが、いずれ厳しい時代が来る、という大きなリスクを抱えながらの〝晴れ間〟だと思っている。ここに至るまでの歴史を振り返ってみると、欧州では『1国・1社』のような姿から再編を繰り返し、年産300万トンクラスの大手3社に集約された。しかもその過程では血の出るような合理化を断行している。一方では通商政策により中国、韓国など新興国からの安値輸入を抑えてきた。そういう苦しい手を打ってきた上での業績回復だ。米国メーカーも同じような道をたどってきている」

――日本のステンレスメーカーの業績改善も著しい。

 「当社で言えば、汎用品輸出を抑え、独自の戦略商品で勝負してきた効果が出ているが、これも内需が堅調だからできたことだ。将来、人口減で国内マーケットがシュリンクしてきたら販売競争が激しくなる。加えて輸入鋼材も増えてきており、楽観できる状況にはない」

――中国では世界最大手の青山鋼鉄が設備増強を続け、攻勢をかけている。

 「中国市況は持ち直しているが、青山はホットコイルと半製品を中心に量を増やしている。本格的に冷延鋼板にまで出てくると、どの程度の脅威となるのか。ここはまだ見えていない」

――懸念材料はたくさんある。

 「日本市場のシュリンク、保護貿易の高まりなどを考えると今が一番良い時と思うべきだろう。だからこそ、事業統合により国内薄板の安定した事業基盤を築いておかなければいけない。悪くなってからでは遅い」

――世界のステンレスメーカーの年産能力を見るとトップが青山(中国)で880万トン、2位の太鋼(同)が430万トン、次いで300万トン級の欧州3社とポスコ。新日鉄住金ステンレスは日新と一緒になっても180万トンで9位と事業規模としては見劣りする。厳しい競争を勝ち抜くためには何をしなければいけないのか?

 「統合によるシナジー最大化で競争力を一段と高めなければいけない。一つは管理・間接コストの低減。製造面では鹿島、衣浦、光、周南、八幡の5拠点について、それぞれの特徴をよく精査した上で最適生産体制を構築する。例えば、自動車用ステンレスは、新日鉄住金・八幡製鉄所のタンデムミルでOEMをしてもらっているが、タンデムミルは生産性の高さや加工性の良さなど、あらゆる面で圧倒的な強さを誇っており、当然生産を集約していくことになる」

 「また製造拠点間でおのおのが有する優位技術を相互に展開することにより、弱みを補完するとともに強い部分はさらに伸ばしていく。これらの俯瞰的な取り組みを通じて新会社ベストの絵姿を追求していきたい」

――そういう手を打つことでコスト削減を進めようと?

 「それだけでは国際競争に勝ち残っていけない。両社の製造技術や商品開発力を合体させれば新しい高付加価値商品が開発できるかもしれないし、開発途上にある商品の開発スピードが上がるかもしれない。これを楽しみにしている。国内市場にとどまらず海外の需要をどう捕捉していくかも課題だ」

――原料・資材などの調達面ではどんなシナジーを期待しているのか?

 「これまでは調達に関する情報交換はやっていたが、調達先との交渉は個別に行っていた。統合が決まったので両社トータルとしてメリットが出る場合は調達条件を見直す。規模が大きくなったことで、バーゲニングパワーも強くなる」(一柳 久男)

© 株式会社鉄鋼新聞社