金属行人(6月7日付)

 先週1日は全国的にアユ漁の解禁だった地域が多く、好天も手伝って首都圏郊外の清流も腕自慢の太公望でにぎわった。アユは別称「初夏の使者」ながら、土日はうだるような暑さ。川遊びを楽しむ子どもたちの歓声に夏本番さながらの感覚にとらわれた▼とはいえ、至る所で艶やかに咲きそろう紫陽花は梅雨そのもの。「移ろい」という花言葉の一つが表すように、まさに季節の狭間にあるのだろう。後々振り返れば合点がいくものの、たちまちそのただ中にいると実感するのはなかなか難しいものだ▼世間では、息つく間もなく日替わりで耳目を集めるニュースが絶えない。そのあまりの多さと幅広さに、折々の変わり目を実感するどころか、年初の出来事さえ記憶が怪しい。間もなく1年も折り返しに差し掛かろうとしている昨今、気付けば年の瀬というのは避けたい▼さて冒頭の「アユ」。日本最古の歴史書「古事記」には「年魚」と書かれているそうだ。その生涯は秋の孵化から夏の産卵にかけての1年。ついついはかなさに目が行きがちだが、それもまた自然の営み。どの世界も生存競争は激しい。何時も世の流れにのみ込まれないよう、ちょっとした変化にも敏感であり続けたい。

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