【日本電線工業会創立70周年】〈小林敬一会長(古河電工社長)〉技術磨き安心・安全社会に貢献 プレゼンス高め人材確保、活性化

 電線産業は電力・通信インフラの構築や建設・自動車など幅広い業界への貢献で社会基盤を支えている。日本電線工業会は電線産業の発展を通じ、経済成長や生活の向上に寄与しながら今年で70周年を迎えた。電線産業のさらなる成長に向けた展望を、小林敬一会長(古河電工社長)と中小・中堅会員を代表する高安晋一副会長(東京電線工業副会長)に聞いた。(古瀬 唯)

――電線産業の70年間を振り返って。

 「戦後復興期から現在までの70年間、電線は電力や信号を送る血管・神経として社会を支えてきた。電力の安定供給網は当然の存在と思われるかもしれないが世界的にも非常に優れたものだ。国内の需要構造は80年代まで電力・通信などのインフラ整備や工業プラントの建設向け、輸出向けが多かった。だがインフラが行き渡ってきたことや顧客に対応した生産海外シフトなどで今は建設・電販が主力。会活動では時代に応じた施策を推進。この10年間では組織改革やコンプライアンス強化、太陽光発電・EV用電線の規格整備などに取り組んだ」

――今後の需要動向については。

 「銅電線は五輪特需などで19年度がピークになりそうだが、その後も量的に大きな変動はないだろう。ただ自動車電動化の進展次第では関連の電線が増える可能性はある。また世界的な生産自動化でロボット用電線は堅調なニーズが見込まれるほか電線地中化も期待材料。海外需要は欧米や新興国の電力関連でしばらくは堅調だろう。軽量なアルミ電線は自動車燃費や建築物の配線作業性を向上させる利点で増加する。光ケーブルは次世代高速通信やIoT、自動運転化がプラス材料になる」

 「新たな分野では量ではなく付加価値が高まる。特徴ある電線が必要な市場で、技術に優れる中小中堅会員の皆さんの存在感をさらに高めるのが工業会の役割。情報共有化などで商品開発を支援できるようにしたい。併せて技術力・製品力をPRする役割も担えれば」

――会活動での重点テーマは。

 「一つ目は商慣習の改善。電線業界にとって大変厳しい取引慣習があり、過去のカルテルを反省しつつ適正化に取り組んでいる。適正取引の指針であるガイドラインを策定し、昨年は流通や顧客の関連団体への紹介などで周知してきた。また経産省の金属産業取引適正化ガイドラインに電線が盛り込まれるなど国にも支援いただけている。18年度は会員が共有できる取引条件のチェックリストなどを作成する予定だ」

 「グローバル化への対応では日系電線メーカーの海外法人出荷統計を継続しつつ、導体を太くし通電ロスを減らす環境配慮型導体サイズ設計や超電導電力ケーブルの試験方法の国際規格・標準化にも力を入れる。環境対応では温室効果ガスの削減について発信の幅を広げたい。併せて中堅中小会員の経営基盤強化に向け公的な助成施策の情報を迅速に提供しつつ、ユーザーによる技術動向の講演会や電線総合技術センターと共同した技能継承支援研修を充実させる」

――電線産業が発展し続けるには、どのような取り組みが必要に。

 「技術を磨きつつ安心・安全で快適な社会に貢献すること。今後はIoT・AIや電気自動車の普及などの技術革新に対応していくことが重要だ。自動車と情報通信・電力網の連携に用いる製品の開発に加え、電力消費の変化に応える送配電へのソリューション提供が求められる。またロボットなど電線の付加価値が認められる市場が活性化するので、そこでの製品ニーズをしっかりつかんで提案力を高める必要もある。併せて我々の生産にAIやIoTを取り入れ国際競争力を強化したい。ここでは大手の取り組みを中小中堅の皆さんに展開する工夫も必要。また配線省力化で人手不足に対応できるアルミ電線は規格化で普及を後押しする」

――電線業界のプレゼンス向上にも注力しています。

 「血管・神経として社会を支えている事実を発信し業界のプレゼンスを高めて、電線産業に携わる全ての人が自分の製品に胸を張り、仕事をさらに誇れるようにしたい。これは会員各社の持続可能性のため本当に大切。誇りを持ち元気に働ける職場は人材も集まり、さらに活性化する」

――地位向上への具体的施策は。

 「電力・通信インフラがあってこそ生活が営めるという事実を広く知ってもらうため意識調査や一般の人たちに電線を紹介するWEBサイトの開設に取り組んだ。併せて単心・対線・3相交流の電線構造を表す111と、繋がりを連想させる8にちなみ11月18日を「電線の日」とすることも決めた。また自分たちの製品が実際の現場でどう使われるかを見せることで士気を高められるほか、求められる機能・特性を改めて認識できる。今後はそのための施策も視野に入れたい」

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