『みなさんの爆弾』朝比奈あすか著 不器用にしか生きられない女たち

 初めてのラブレターの相手は女だった。渡したのも、受け取ったのも。「好きです」とだけ書かれた手紙が下駄箱に入っていたこともある。女子中→女子高→予備校(男子だらけ)→女子大。女しかいない環境では当然リーダーは女、力仕事も女、ドキドキする対象も女。この経歴が、不器用にしか生きられないという自分の弱点をつくった要因の一つだと思ってきた。

 でも別の言い方もできる。ジェンダーバイアスからかなり自由でいられたし、好きになる対象は男でも女でも構わないと思っている。ごく自然に、そういう思想が身についた。

 そんなことを考えたのは、朝比奈あすかの小説集「みなさんの爆弾」を読んだせいだ。本書に収められた6編の主人公たちもみな相当に不器用で、痛々しいほどだ。

「初恋」に登場するのは「女子高って、通い始めたらパラダイスだ」と気づいた中学生。バスケ部の沢木先輩に一途な恋をする。先輩が走る姿を見て他の生徒は「必死すぎ」と笑うが、その必死さにこそ見惚れるのだ。

 長じて恋愛小説家になった「わたし」は振り返る。「あれは、見事に本能だった。ローティーンのあの一時期にしか持てない、野蛮なくらいの、本能」「あの頃の甘酸っぱい痛みには、きっともう出会えない」

「官能小説家の一日」には「ママーああああああああああ!!」とたびたび絶叫する2歳児を育てているシングルマザーが登場する。本書の中で最もたくましい主人公だ。綱渡りのスケジュールで、子育てと作家業を両立させようと奮闘する。「エロい文章を売ってます。でも、この仕事に誇りを持ってもいる」。作家の矜持にしびれる。

「戦うなと彼らは言った」は、補習塾の事務員として働きながら、早朝起きて執筆するファンタジー小説家の波津子の日々が語られる。ある日、授業中の教室から、中学2年の相沢君が飛び出してくる。夢中で後を追った波津子は相沢君を励まそうとして、自分の子ども時代を思い出す。いじめがひどくて学校に通えなくなった頃のことを。波津子は相沢君に言う。「学校なんていう小さな、一時的な場所で、理不尽な戦いのために心や体をすりへらす必要はないんだよ」

 6編全て、女性作家が主人公。物書きの業と女性としての痛みを抱えている。彼女たちはどこか過剰であり、いびつである。そして心の中に爆弾を隠し持っている。いつかドカンといくかもしれない。

 爆発したら、社会人としての生活が破綻するのだろうか。でも、それでもいいじゃないかとも思う。きっと、解放が待っている。

(中央公論新社 1550円+税)=田村文

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