国内厚板市場、需給タイト化が〝追い風〟 店売り・建築プロジェクト、値上げほぼ浸透

ヒモ付き価格交渉が焦点に

 建築鉄骨、橋梁・土木といった建材全般や建機・産機などの各分野の活動水準が高く、造船分野も徐々に新造発注が増えつつあるなど厚板を取り巻く需要環境は総じて底堅く、厚板各社ともロールはタイトな状況にある。

 こうした需給の急速な引き締まりも追い風に、国内高炉大手では「再生産可能な水準への価格引き上げ」に向けた動きを加速。店売りおよび建築プロジェクト(PJ)向けは「今年度上期の追加値上げがほぼ浸透」(高炉大手)し、さらなる追加値上げも視野に入れつつあるもよう。

 大手ヒモ付き向けについても店売り、建築PJ向けと同様に値上げに向け不退転の構えを示している。収益向上には「早期価格改定が必達」(同)なことから当該需要家との個別交渉を例年よりも早期化しているとのこと。目下、本格交渉の佳境にあるようで、その行方が注目される。

総じて需要堅調

 国内厚板需要は、建築が都市部の再開発物件や2年後の五輪開催を控えたインフラ整備工事を中心に旺盛で、鉄骨ファブは大手、中堅クラスが山積みを抱えてやり切れない状況。

 コラム加工メーカーやビルトH形鋼メーカーの操業度も総じて高く、建材シャーも大手とそのサブシャーでは細かい短納期の切板や穴あけに追われている。

 建機も北米や中国向けの底堅さに加え、マイニング機種の生産も旺盛だ。建機主体のシャーでは繁忙状態が続き、納期対応のための工場操業のやりくりや外注対応に躍起となっている。

 出遅れていた造船も、環境対策船や老齢船の解体進行に伴う新造発注の回復が今後見込めそう。造船については、韓国造船が政府支援による新船建造量急増の動きもあり、韓国ミルだけで受け止められず日本への材料引き合いも増加しそう。

 こうした国内外需要の堅調さを背景に国内の各ミルは供給余力に乏しく、とりわけ韓国造船向け対応によって今後さらなるタイト化が必至の情勢だ。

 高炉大手では、これら旺盛な需要に対して限られた供給能力の中で最大限に応えるため薄手や狭幅、小単重といった生産負荷の高い厚板製品の受注対応方針を見直すとともに、すでに実施している店売り分野の受注調整規模を拡大する。それでも「造船や建機といったヒモ付き分野での納期調整にも踏み込まざるを得ない」(同)としている。

 現在、厚板市況は母材、切板ともにこう着し、踊り場の様相だ。高炉大手は店売り、建築PJ向け追加値上げのトン5千円を上期中で完全浸透させ、さらなる追加値上げの構えも見せるが、流通・シャー段階ではいまだ積み残しを抱え、売値への転嫁に苦慮している。

末端筋の収益悪化

 特にエンドユーザー向け切板値上げが遅々として進まない。というのも、切板販売先はヒモ付き大手の系列部品加工業や製罐業といった中小の下請け企業が多く、元請け・親会社の部品購入価格が切り上がらなければ、切板の値上がり分がそっくりコスト圧迫・採算悪化に直撃するだけに安易には切板値上げを容認できない。

 シャー側も仕入れ値上昇分の切板販価へのフル転嫁が急務だが、顧客(エンドユーザー)の抵抗は強く、市場の末端で双方が価格改定にあえぎながら互いに収益性の低下を余儀なくされているのが実態だ。

 川下・末端実需が、先々に期待感はあるものの足元ではいまひとつ精彩を欠いているのも一因だが、ヒモ付き価格交渉の難航が影響しているとの指摘もある。実際、流通・シャーでは「大口ヒモ付き向け価格改定が、目に見える形で末端に伝わってこない」ことへのいら立ちを募らせている。昨年来の店売り向けとヒモ付き向けとの値上げピッチが異なることを知っているからだ。

「再生産可能」な価格水準に

 供給サイドもこの点は課題として強く認識している。その是正に向け、マクロ需給のタイト化を〝追い風〟と感じている。

 すなわち国内のサプライチェーン構造を踏まえると、今後さらに鮮明になる需給タイト化の影響を、ヒモ付きユーザーも受けざるを得ないということだ。まさに今、佳境にある大口ヒモ付きユーザーとの価格交渉の動向が、最大の焦点である。

 この結果を踏まえて高炉大手は「再生産可能な価格水準と収益の確保」への次の一手を打ってくるとみられる。

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