やりすぎ「喜び組パーティー」で赤っ恥をかいた北朝鮮の外交団

米中央情報局(CIA)は昨秋、北朝鮮の金正恩党委員長のキャラクターについて「欧米の文化に強い憧れと尊敬の念を抱いている。北朝鮮の歴代指導者より交渉しやすい相手。米国が取りこめる可能性がある」といった趣旨の報告書をまとめていたと、朝日新聞が7日付で報じた。

同紙によれば、この報告書が、トランプ米大統領を北朝鮮との取引(ディール)に突き動かすきっかけのひとつになったという。

ビキニより過激

金正恩氏が、欧米文化にどの程度の憧れを持っているかは、筆者が観察した限りではハッキリわからない。しかしスイスでの留学経験もあることから、祖父の金日成主席や父の金正日総書記と比べ、欧米文化によく馴染み、親しみを持っているであろうことはうかがえる。たとえば、元NBAスター選手との関係を見るだけでも、それは感じられる。

むしろ「憧れ」をより強く持っていたのは、父の方ではなかったかとも思う。

冷戦が終わり、ソ連・東欧の社会主義圏が崩壊した1990年代初め、金日成・正日親子は、欧米先進国と国交を結ぶことを渇望した。ライバルの韓国は経済力にものを言わせ、北朝鮮の後ろ盾であるロシア、中国と早々に国交を樹立。北朝鮮の孤立は深まる一方だったからだ。

そんな中、北朝鮮にひとつの吉報がもたらされる。イタリアが、中国駐在のロッシ大使と外務省アジア局長からなる代表団を、北朝鮮に派遣することになったのだ。1992年11月のことである。

このとき、北朝鮮側で代表団の通訳を任されたのが、韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英北朝鮮公使だった。太永浩氏はこの時のエピソードを、韓国で出版した近著『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)に詳しく書いている。それによると、イタリア代表団訪朝の知らせを聞いた金親子は非常に興奮し、「一気に国交樹立へ持ち込もう」と張り切ったという。

結論から言えば、その試みは失敗した。最大の原因は核開発問題だったが、北朝鮮側はほかにも「失敗」をやらかした。代表団を「喜び組パーティー」で接待し、不興を買ってしまったのだ。

ロッシ大使はそれでも、歓待に感謝する表情を見せていたが、韓国人の妻を持つというアジア局長の方は「自分は妓生(キーセン)パーティーは苦手だ」と言って、露骨に不快感を示したという。

太永浩氏によれば、そのパーティーに出演した「喜び組」ダンサーたちの衣装はビキニよりも露出度が高いものだった。たまにネットで見かける「喜び組」の映像より、さらに過激なものだったとのことだ。

金正日氏は欧米との関係改善に大きな期待を寄せながらも、欧米を理解してはいなかったのかもしれない。それにしても、金正日氏は海外で「喜び組」パーティーを暴露した妻の甥を暗殺させるほど、この隠微な遊びを秘密にしていた。

それを惜しげもなく外国人に披露してしまったのだから、欧米との外交関係をいかに渇望していたかがわかる。しかし、それはまったくの逆効果となり、「赤っ恥」をかいただけで終わってしまった。こう考えると、やはり交渉事においては、相手の文化を理解していることは大事だ。そうするとやはり、金正恩氏は比較的、米国との対話に適任ということになるのだろうか。

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