【関西鉄鋼業の展望と課題】〈(3)人手不足・下〉「働き方改革」で人材確保 女性社員を積極活用

 人手不足問題で、外国人技能実習生を雇用する動きがある一方で、政府が力を入れる『働き方改革』に対応して、柔軟な人事制度やベテラン社員、女性社員の積極活用で問題解決する鉄鋼関連企業もある。

「地域限定職」設け、多様な働き方に対応

 厚板溶断業国内大手の玉造(大阪市)は、全国に6事業所・10工場があり、月間加工量は1万トン超。東名阪だけでなく、四国・九州にも営業・生産拠点がある。同社は総合職も工場勤務からスタートし、その後に営業などに配属する人事制度で、特に現場を重視する。厚板溶断業は、工程の自動化が難しい業態だけに、人材の質・量がその企業の競争力を左右することになるため、人材確保に注力しているが、棚橋社長は「今年度は14人を採用したが、予定人数に足りなかった。就職希望者は、地域の大手企業にどうしても流れやすい。来年度の採用は、さらに厳しくなるだろう」と危機感を強める。

 採用の難しさに対応し、省人化を図るため「RPA(ロボットによる業務の自動化)導入による伝票の入力作業や作図などの自動化を検討していく」方針だが、「安全・品質管理の要員がこれまで以上に必要だ」という。こうした中、人材を確保するため、見直したのが人事制度。同社にはこれまで総合職と一般職の職制のみであったが、今年度から転勤のない、いわゆる「地域限定職」を設けた。「社員にも働き方に関して、多様な価値観がある。社員がより働きやすい環境になるよう、柔軟に対処していきたい」との考えだ。

社員の資格取得を促進し、技術力向上

 軽量形鋼大手の中山三星建材(大阪府堺市)。「工場要員で人手不足はないが、技術系などの学卒が少ない。事業を高度化し成長させていくには高度な分野の人材が必要だが、簡単ではない」と辻村光夫社長はする。65歳までの再雇用に加え、知見が豊富で会社に必要な人材については65歳以上でも契約していく計画だ。また社員を対象に一級施工管理技士や電気工事士の資格取得促進と、人材紹介会社を通じて高度な技能や知見を持つ人材採用の両建てで、事業の高度化・高付加価値化に向けた人材確保作戦を進めている。北海道から九州まで10工場を持つ同社では「鉄鋼建材がベースだが、今後、各工場・地域の住民生活などにも役立つ生活課題解決型の事業展開や、海外での事業展開も視野に入れていきたい」とする。

 地域に根差した採用活動や、女性活用などにいち早く着手し、人手不足が顕在化していない企業もある。

雇用条件改善で人材獲得力高める

 電炉メーカーの中山鋼業。高卒定期採用を計画的に実施しており、補充採用でも『正社員』希望の若手が入ってくる。派遣会社からの現場要員も3年ほどの成績次第で正社員に採用している。正社員採用、週休2日制や社会保険完備など福利厚生面で安定した雇用条件が確保されている産業には、若手が転職してくる。高卒採用では、九州の工業高校に毎年求人活動を行っている。昨年から島根、鳥取など中国地区の高校にも求人活動を拡大した。それでも同社では「5年後、10年後には人手・人材の不足問題が深刻化する」として、(1)人材確保(2)人材育成(3)労働環境の改善―を重点課題にしている。

「大事なのは制度ではなく、風土」

 中堅の特殊鋼流通、天彦産業(大阪市)は、女性社員も含めた働きやすい職場づくりで、毎年新卒者が多く採用募集に応募してくる。いち早く女性社員が産休・育休後も復職をしやすい職場環境を整えてきた。〝社員第一主義〟を掲げ「会社が好きになり、やる気のでる職場」(樋口友夫社長)づくりに努めており「大事なのは制度を整えることでなく、会社の風土」とする。

 女性社員が産休・育休に入ると、他の社員の負担が増えるが「〝お互いさま〟という気持ちがあれば、休みやすい」という。そのため、会社として有給の消化を社員に勧めている。誕生日や結婚記念日などのメモリアル休暇を年度の初めに設定。子供の学校行事には会社を休み参加するよう推奨している。国内企業の有給消化率が50%弱で推移する中、同社では75%と高い。そのため40人の社員が「毎日誰かが休んでいる」(同)状態。業務への支障が懸念されるが「休む前には集中力が高まりミスが減り、引き継いだ社員もしっかりとフォローするので、生産性はむしろ上がっている」とし「社員のモチベーションを上げ業績を伸ばすことで、永続企業を目指したい」と樋口社長はする。

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