介護へ保育へ…変わる仕事の形 長崎県内のシルバー人材センター 「派遣」年間延べ6万人 草刈り、剪定 希望する世代減少

 60歳以上に働く場を提供する県内のシルバー人材センターで、会員の仕事の形に変化が起きている。主流だった「請負」から、近年は会員とセンター側が雇用契約を結んだ上で、派遣先の指揮命令で就業する「派遣」が増加。「派遣」での就業延べ人員は昨年度、県内で計6万人を突破し、5年前の3・4倍となった。従来は、草刈りや庭木の剪定(せんてい)など屋外作業を請け負うイメージが強かったが、介護や保育の補助などでも高齢者が一役買い、活動の幅を広げている。現場を訪ねた。
 「ちょっと上がったねえ」。大村市内のデイサービスセンター「キャロット広場」。市シルバー人材センター会員の瀬尾伸二さん(67)は、歌を口ずさむ利用者の体温を確かめると優しく語り掛けた。
 食事、入浴の支援のほか、一緒に絵描きやゲームをするなど多様な仕事をこなし、施設職員を補助する。週3回、各4時間の勤務。派遣前に介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)も取得し、施設の信頼も厚い。
 元海上自衛隊パイロットだが、「地上に降りれば普通の人です」と語り、約4年前に他界した母親を自宅で介護した人生経験を生かす。「デイサービスの利用者は私の親の世代が多く、私に話し掛けやすいようだ。自分の年代でも働ける」と語る。
 「ちぎのもり保育園」(同市)では、センター会員の武下ツルエさん(70)が園児の食事に付き添っていた。おむつ替えもこなす。年上の子が年下の子の頬をなでる姿など、園児に癒やされ元気をもらう日々。「生活に張りが出て風邪もひかない」。久門伸悟園長は「幅広い世代で子どもを見るのは大切で保育士にも良い影響」と信頼を寄せる。
 同市シルバー人材センターによると、会員(約720人)のうち、約100人を約50カ所に「派遣」。うち約20カ所は介護・保育施設が占める。人手不足に悩む業界の需要に加え、森信一郎事務局長は60代の“質”の変化も口にする。「戦後の産業構造の変化に伴い、1次産業に携わった経験がない世代がシルバー世代に到達し始めている。剪定、草刈りを希望する会員は減っている」
 県シルバー人材センター連合会によると、県内各センターの「派遣」による就業延べ人数は、2012年度の約1万8千人から17年度は約6万1500人に増加。派遣契約金額も約1億600万円から約3億4千万円に増え、いずれも過去最高となった。就業延べ人数を見ると、「派遣」が占める割合は12年度の3・4%から16年度は9・6%に伸びており、この傾向は今後も続きそうだ。
 同連合会の岩本公明事務局長は「高齢者は『支える側』に移行した。人手不足や、現役世代を補助する分野の講習を強化したい」。15年度に1カ所だった会員向け介護補助の講習を本年度は10カ所で開くという。

利用者の体温をチェックする瀬尾さん=大村市、デイサービスセンター「キャロット広場」
園児に笑顔で語りかける武下さん=大村市、ちぎのもり保育園

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