トランプ氏はプーチン氏のいいカモなのか

By 太田清

 

ロシアのプーチン大統領、2017年10月18日撮影(ロイター=共同)

 この週末はトランプ米大統領の発言や振る舞いに世界が振り回された時期となった。振り回されるだけならいいが結果的に、ウクライナ情勢介入やシリア空爆などで欧米と対立してきたロシアにとり、願ったりかなったりの状況を作り出す結果となっている。 

 トランプ氏は先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が開かれるカナダへの出発前、ホワイトハウスで、世界の問題を解決するため「好き嫌いに関係なく、ロシアを交渉のテーブルに着かせる必要がある」とG7にロシアを復帰させるべきだとの考えを示した。 

 1975年に発足したサミットは自由主義を掲げる西側諸国による協調の場だったが、当時のエリツィン政権による民主化支援の目的もあり90年代にロシア参加を容認、G8となった。その後G8の枠組みが続いていたが2014年のロシアによるウクライナ領クリミア併合を受け、同国への懲罰の意味からロシアの参加は停止され、今に至っている。 

 これに対し、ドイツのメルケル首相は「ロシア復帰の条件は整っていない」と強調。ポピュリスト政権が発足したイタリアは賛同したものの、英国のメイ首相も「ロシアは悪意ある行動を改めなければならない」と語った。それはそうだろう。14年当時と比べると何が変わったというのだろうか。 

 国際法に反して併合されたクリミアは、ロシア本土との間を結ぶクリミア大橋の建設などロシアによる実効支配が進んでいる。ウクライナ東部では関係国による停戦合意にかかわらず散発的な戦闘が継続。シリアでの露骨なアサド体制支援に加え、米国やフランスでの大統領選介入疑惑、英南部でのロシア元情報機関員への神経剤襲撃とその後の外交官の追放合戦・・・・。対ロ関係は当時より悪化しているとさえいえ「新冷戦」との言葉も聞かれるようになった。 

 ましてや、ロシアの天然ガスによるエネルギー供給に依存している欧州や、北方領土問題解決にむけての「信頼醸成」を第一義としている日本と比べ、米国がロシアに負うべきものは少ないにもかかわらず、なぜこの時期に唐突に「G8復活論」を唱える必要があるのだろうか。通商政策などで対立する米国を除く「G6」をけん制する狙いもあるのかもしれないが、そうであったとしてもあまりに国際情勢に配慮のない言動だ。 

 当のロシアは、ラブロフ外相が「(G7への復帰を)頼んだことは一度もない。20カ国・地域(G20)が最も将来性のある枠組み」と一蹴。プーチン大統領も「(ロシア、中国、インドなどが加わる)上海協力機構の人口や購買力はG7を上回っている」と述べ、同機構を重視する考えを強調した。せっかくG7復帰を唱えたのに当のロシアに拒否された形だが、ロシアにとり、G7でロシア復帰論が強まることは悪い話ではない。きっかけとなったクリミアの実効支配をG7に半ば認めさせることになるし、対ロ制裁緩和の議論にもつながるからだ。 

 G7内でも亀裂が目立った。米国の保護的な通商政策を巡り協議が難航した末に、議長国カナダが「関税の引き下げに努力する」との首脳宣言をまとめたものの、トランプ氏はその後、首脳宣言を米国として承認しないよう指示したとツイッターで表明。G20やアジア太平洋経済協力会議(APEC)などと比べ、地位低下が指摘されているG7が分裂すれば、さらにその存在意義が薄れることにつながりかねない。 

 一方、同時期にロシアと中国が主導する上海協力機構は、中国山東省青島で首脳会議を開催。中国の習近平国家主席は同機構が「(国際的に)軽視できない重要な勢力になった」ことを誇示。会議はどんな形での保護貿易主義にも反対することなどで合意、参加国間の対立が目立ったG7とは対照的に、加盟国の結束を強調する「青島宣言」に首脳が署名して閉幕した。 

 中国とともに「米国一極支配」に対抗し「多極化による国際秩序」形成を目指すロシアは、米国と同盟国の関係にくさびを打ち込むとともに、米国を中心としたG7や北大西洋条約機構(NATO)などの枠組みが弱体化することを目的とした政策を推し進めてきた。この点でも、トランプ氏の米国第一主義により、まさに願ったりかなったりの状況が到来しつつあるわけだ。 (共同通信=太田清)

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