【高校野球】大阪桐蔭VS履正社 両校前主将が語る宿命のライバル対決の記憶

慶大野球部でチームメイトとなっている若林将平(左)、福井章吾【写真:荒川祐史】

正面から野球に向き合っていた高校時代「あの時にまた戻りたい」

 熱い闘志をぶつけ合ったあの夏の日から、もうすぐ1年になる。昨年7月、全国高校野球選手権大阪大会。全国有数の強豪校同士、大阪桐蔭と履正社が準決勝で対戦した。春の選抜大会では決勝で頂点を争った両雄の激突は、大阪桐蔭が8-4で勝利。センバツ決勝(8-3)に続いて最大のライバルを下し、甲子園まで駆け上がった。全国大会をしのぐ注目を浴びた試合で覇を競い合った大阪桐蔭・福井章吾と履正社・若林将平の主将同士は現在、慶大野球部でチームメートとなっている。2人に、1年前の夏の記憶を語ってもらった。

 去年のちょうど今頃は、ひとつの目標だけを見て汗まみれになっていた。特にこの時期は夏の地方大会前で、追い込み期間と称して、練習はさらに濃いメニューになる学校も多い。本来なら“もう二度とあんなキツイ練習はやりたくない”と言いたくなると思うが、2人は「あの時にまた戻りたい」と、口を揃える。

 大阪桐蔭のキャプテンだった福井章吾は言う。

「語弊があるかもしれないですけれど、高校野球ほど野球に正面から向き合える野球はないと思うんです。今でもちゃんと野球には向き合っていますよ。でも、高校は朝から晩まで野球漬けで、野球のことを考える時間しかなかったですね」

 大阪桐蔭は5月の下旬から強化練習と称し、体を追い込むためにランニングやトレーニングメニューが増える。大阪の夏の大会は最高で8試合を戦う(今年に限っては記念大会で2校選出のため最高7試合)ため、サウナスーツを着ているような酷暑の中でも自分の動きができるよう、グラウンドコートを着てランニングもする。

 春の近畿大会は今年で2連覇中だが、ちょうどその時期は強化練習真っ只中。疲労と戦いながらの大会だったが、福井は「あれだけ注目されてプレーする野球はないと思います。すべての選手が甲子園に行けるわけではないけれど、それだけ注目されて、そこまでの過程を見てくれる人が多いのは幸せなこと。神宮球場でどれだけお客さんが入っても、甲子園の48000人には勝てない。そう思えるほど、高校野球は充実していました」と振り返る。

 履正社の前主将・若林将平も、同じように野球漬けだった履正社時代のことをこう振り返る。

「大学ではある程度自由な時間もあるけれど、高校の時は本当にすべてを野球にぶつけていました。練習が休みの日も整骨院に行ったり、体をケアする時間に充てたり、本当に野球だけという生活でした。甲子園という明確な目標があったから、毎日が充実していましたし、1日1日が早かったような気がします。怒られることは多かったけれど、練習がキツイとは思わなかったです。それだけ野球漬けの日々が楽しかったからですかね」。

昨年、大阪桐蔭で主将を務めていた福井章吾【写真:荒川祐史】

寮生活VS自宅通学 対照的な環境がライバル意識高めた

 2人が入学してすぐの夏は、両校が大阪大会の初戦でいきなり対戦した。舞洲球場(現・大阪信金シティスタジアム)は試合開始数時間前から人であふれ、最寄りのJR桜島駅からの道は大渋滞。選手たちの移動のバスも動かず、履正社ナインは途中から徒歩で球場入りする不測の事態にも見舞われた。

 当時、スタンドでファウルボール係をしていた福井は「お客さんが多すぎて通路にも座っている人でぎっしりで動けなくて、ファウルボールを取りに行けなかった記憶があります」と笑う。ただ、大阪桐蔭は履正社戦になると、ライバル意識をむき出しにする。近年、比較されることの多い両校は、学校の方針などから環境が対照的で、息の抜ける時間のある自宅通学の履正社に対し、何もかも制約された寮生活を送る大阪桐蔭には、履正社には絶対に負けたくない意地があった。

「試合前にミーティングをする時、データなどをきっちり確認した後でも最後は“どんな形でもいいから勝ちたい”っていう結論になります」と福井。対戦するたびにドラマが生まれる両校の戦いは、昨夏は府大会準決勝で再現された。そんな中、優勝したセンバツで安定感抜群なピッチングを見せたエースの徳山壮磨(現・早大)と履正社の強打者・安田尚憲(現・千葉ロッテ)との対決に注目が集まった。

 当時、マスクを被った福井は、安田との勝負について「どこに投げても打たれる雰囲気がありました。インコースを要求したら、インハイにシュート回転してしまって、センターに特大の当たりを飛ばされた打席は、もう素直にホームランかと(笑)。藤原がいいところに守ってくれたので良かった(結果は中飛)ですが、あんなバッターはそうそういないです」と6試合で打率が6割を超えていた安田の凄みに脱帽していた。

昨年、履正社で主将を務めていた若林将平【写真:荒川祐史】

「やりきった」けれども勝てない まざまざと感じた大阪桐蔭の底力

 試合後、ミーティング等を終えて大阪桐蔭のベンチ裏を訪れた主将の若林と副主将の安田は、千羽鶴を大阪桐蔭ナインに託し、若林は福井と硬い握手を交わした。涙はまったくなく、両チームとも“やり切った”という充実感がにじみ出ていた。ただ、若林は今でもこう思っている。

「なぜか勝てないんですよね、自分たちは。中盤まではいい勝負をしても、最後は持っていかれるというか…。大阪桐蔭の底力というか、強さはそこだと思います。自分たちももちろん、勝つ気で何度も勝負しているんですけれど。でも最後はこうなっているんです。最後まで大阪桐蔭は大きな壁でした」。

 この春は近畿大会連覇を果たした大阪桐蔭に対し、履正社は府大会4回戦で敗れた。互いに現状がくっきりと表れた春となったが、夏はすぐにやって来る。100回目となる今夏の大会でも、大阪桐蔭と履正社が織りなすドラマを目にすることが出来るだろうか。

◯プロフィール
福井章吾
1999年4月23日、大阪府豊中市出身。168cm、73kg。右投左打。大阪桐蔭では2年春のセンバツに初めてベンチ入り。一塁手と捕手を兼任していたが、昨春のセンバツでは正捕手の岩本久重が骨折し、代わりにマスクを被ってセンバツ優勝に貢献。主将としてのキャプテンシーの強さも光った。

若林将平
2000年3月3日、大阪府大阪市出身。181cm、86kg。右投右打。履正社では1年秋にベンチ入り。2年夏の甲子園では全3試合でスタメン出場。2年秋から4番となり、3番の安田尚憲(現・千葉ロッテ)と共に主将としてもチームをけん引。秋の明治神宮大会の高校の部で優勝。昨春のセンバツでは準優勝を果たす。

(Full-Count編集部)

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