【現場を歩く】〈鋼材販売・加工アイ・テック相馬工場〉東北地区最大級の鋼材供給拠点在庫能力2万トン 年間出荷能力6万トン、東北でのシェア拡大狙う

 東日本大震災で甚大な被害を受けた福島県相馬市に、鋼材販売・加工と鉄骨工事請負を手掛けるアイ・テックが今月5日、東北地区では初となる鋼材流通・加工拠点「相馬工場」を開設した。東日本大震災で被災した相馬港に面し、5千トン級の船舶が寄港できる岸壁を備えた巨大倉庫だ。土地のかさ上げなど土木事業が中心だった復興需要が建築物に移行しつつある中、最大2万トンの豊富な鋼材在庫と、定尺品と一次加工を合わせて年間6万トンの出荷能力を武器に、東北地区の建材需要を捕捉しようとする相馬工場を訪ねた。(新谷 晃成)

5000トン級の船舶、寄港できる岸壁

 相馬港は福島県北部、太平洋に面する同県管理の重要港湾だ。アイ・テックは震災前にも進出を検討したが、国内最大の需要地である首都圏に東京支店・工場(千葉県富津市)を設けたことでいったんは見送っていた。だが東北支店(仙台市)、福島支店(福島県郡山市)、青森営業所(青森県八戸市)で営業展開が活発化するにつれ、東京工場や関東支店(埼玉県美里町)から取引先へ輸送するのには時間を要し、物流コストの増大も課題となっていた。

 このため改めて東北地区での拠点整備に取りかかり、立谷秀清相馬市長ら地元からの熱心な誘致活動もあって相馬市への進出を決定。昨年5月に着工して準備を進めてきた。

 相馬支店・工場は相馬港第1埠頭の県有地約3万8千平方メートルを賃借して建設。規模は工場棟が鉄骨造平屋で延べ床面積約2万平方メートル、事務所棟が鉄骨造3階建てで約250平方メートル。敷地内には約1万平方メートルの緑地帯も設けた。岸壁は水深7・5メートルで、5千トン級までの船舶が接岸できる。

 総投資額は約43億円で、このうち建築費は32億6千万円、設備費は10億3千万円。費用のうち約13億円は経済産業省の津波・原子力災害被災地地域雇用創出立地補助金を受けたほか、長期借入金28億円までの利子補給も獲得した。

 工場進出にあたり、アイ・テックは地元雇用も積極的に展開。鋼材物流の子会社中央ロジテックも含めた従業員数は33人で、うち22人を地元で採用。計画を打ち出した2016年度から採用を開始し、工場従業員の一部は東京工場や清水工場(静岡市)で事前に構内作業を習得してきた。

加工の自動化推進/トラック使わず鋼材移動可能に

 入庫の中心は海上輸送だ。H形鋼やコラム(大径角形鋼管)の多くは、メーン仕入れ先のJFEスチールの各製鉄所から相馬工場に専用船で送られてくる。鋼材は船からクレーンで下ろされると、フォークリフトや天井クレーンを用いて工場内へ搬入。海側となる倉庫の東半分に定尺品を並べ、トラックでの出荷に備える。

 工場西半分にはH形鋼や一般形鋼、軽量形鋼、コラムなど品種別に対応した加工ラインを構築。H形鋼は高速稼働する穴あけ機を通過後、二手に分かれて切断、穴回りのバリ取り、ショットブラストといった工程で流していく。並行して開先加工機も設置し「長さ15メートルまで対応し、深夜に自動運転できるようにした」(杉山茂工場長)。

 コラムも専用ラインを設けて、切断から両面開先まで一貫加工できるラインを設計。途中には短尺品や端材を外すアームを設け、短尺品は別ラインで開先加工できる。このほか一般形鋼や軽量形鋼向けには穴あけや切断の複合機(ユニットワーカー)も配置し、効率のよい加工体制を敷いた。

 広い構内で安全に効率よく鋼材を移動させるため、東西には15トン天井クレーンを、南北には2・8トン門型クレーンとローラー、トロッコをそれぞれ配備。構内トラックが不要な仕組みとした。トロッコは2基を連結して最大10トンまでの定尺品を運べる。

 入庫作業は開所式翌日の今月6日に開始。7月末までに電炉材も含めて計1万8千トンを工場内に積む予定だ。出荷も11日から本格化している。

東北4営業拠点で初年度売上高66億円狙う

 相馬工場は東北四つの営業拠点を中心に出庫や加工を担い、初年度の売り上げ目標は66億円に設定。大久保裕之相馬支店長は「1年前に進出が具体化してから引き合いが大幅に増えたため、当初掲げた50億円を上回る見込みだ」と地元需要の高さを実感する。月間扱い量は5千トンで、内訳は一次加工絡みと定尺品販売がそれぞれ2500トン。年間で6万トンの出荷を目指す。

 大久保支店長は「これまで地場に在庫がないにもかかわらず、多くの取引先に当社に魅力を感じて仕入れていただいた」と感謝しつつ「今後はより即納化を進めてこれまでのご愛顧に恩返ししたい」と力を込める。

関東地区の需要も補完

 アイ・テックが東日本で展開する物流拠点のうち、岸壁を備えるのは清水工場、東京工場、北陸工場(富山県射水市)に次いで相馬工場が4カ所目だ。大畑大輔社長は「太平洋側に3カ所、日本海側に1カ所を有し、東日本をカバーできた」と物流網の完成を喜ぶ。

 岸壁を保有する強みを生かし、土木用鋼材の輸入や鉄骨加工品の中継拠点として活用するほか「将来的には他工場と同じように軽量形鋼などの製造ライン導入や、金物製品の海外輸出も視野に入れている」(大畑社長)。

 上位グレードの鉄骨ファブリケーターが集積する東北地区を主軸に、繁忙期には関東地区の流通機能を補完するなど、今後の役割が注目されそうだ。

加工設備一覧

 (1)コラム切断・開先全加工ライン(全自動1ライン)=月産1千トン

 (2)角パイプ開先加工機1基=対応サイズ100~200ミリ角

 (3)H形鋼穴あけ切断加工ライン(全自動一部2ライン)=月産1500トン、対応サイズH200×100~H1000×400ミリ

 (4)同開先加エライン(全自動シングル開先機1基、ダブル開先機1基)=月産1千本、対応サイズH200×100~H1000×500ミリ

 (5)同ショットライン2基=月産1千トン、対応サイズH150~75~H1000×400ミリ

 (6)同全自動複合機1基=対応サイズH100×50~H500×300ミリ

 (7)胴縁加工ライン(複合機1基、ユニットワーカー1基)=月産300トン

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