【MLB】試合中に「投げようか?」 マ軍選手が「打撃投手イチロー」と過ごす貴重な時間

マリナーズ・イチロー【写真:AP】

超ユーティリティ野手ロマインが打撃ケージで過ごす時間

 今季途中から戦列を離れ、マリナーズ会長付特別補佐としてチームの勝利に貢献することになったイチロー外野手。現在もこれまでと同様に試合前の練習を行いながら、選手と同じ目線で試合を見続けている。5日(日本時間6日)の敵地アストロズ戦の前には、打撃投手としてデビュー。また1つ、新たな形でチームをサポートすることになった。

 早出特打は毎日行われるわけではない。だが、打撃投手イチローは毎日稼働している。実は、試合中にベンチ裏の打撃ケージで控え野手を相手に投げ込んでいるという。

「ボール投げようか?」

 5月25日の本拠地ツインズ戦。試合中に打撃ケージで、こうイチローに声をかけられたのは、控え内野手アンドリュー・ロマインだ。昨年所属したタイガースでは1試合に全ポジションを守った“スーパーユーティリティ”野手。今季はここまで33試合に出場し、投手と捕手以外すべてのポジションに就いたが、打率.157と奮わず。少しでも出場機会を増やすために、試合中も熱心にバットを振り続ける。そんなロマインは、イチローによる突然の“打撃投手オファー”を受け、「思わず『いやいや、あなたが僕になんか投げる必要はありませんから』って答えちゃったよ」と笑いながら振り返る。

「まさか、そんなオファーを受けると思わなかったから、一瞬なんだか分からなくて(笑)。そしたら『僕が投げたいんだからいいんだよ』って投げてくれたんだ。そこから毎日、打撃ケージでボールを投げてくれるんだ。僕が打ち終わった後には役割を入れ替えて、今度は僕がイチローの打撃投手になる。1日50球以上は投げてもらっていると思うよ」

 レジェンドと過ごす貴重な時間を無駄にはできない。打撃技術はもちろん、野球に対する姿勢など、思いつくがままに質問を投げかけるという。「彼はベストの中のベスト。まさかこんな時間が過ごせるとは思わなかった」というロマインは、最近こんな質問をしてみたという。

「メジャーにやってきた当時を振り返って、今だったらこうしているだろう、と思うことはありますか?」

元レッドソックス外野手の父も「彼を参考にするように」

 その時、返ってきた答えはシンプルだが、それゆえに説得力があったという。

「イチローは『もう少し違った心の準備をすると思う。毎日、もう少し何かできるんじゃないかって、やるべきことを探したと思う』って言うんだ。その少しの積み重ねが、自分が気付かないうちに、成長につながるって。今ですら、準備に余念がないことで知られる人物が、そういうことを言うんだ。なるほどって、目から鱗が落ちる思いだったよ」

 ロマインの父は、レッドソックスで7年プレーした外野手だった。イチローがメジャーデビューした2001年にはすでに現役を引退していたが、テレビに映る背番号51を見るたびに、2人の息子たちに「彼を参考にするように」と言い続けたという。2人の息子たちとは、現在マリナーズに所属するアンドリュー、そしてヤンキース捕手のオースティンだ。

 2012年途中から2014年までヤンキースで弟オースティンと共に戦ったイチローは、マーリンズを経て、この春、6年ぶりにマリナーズに復帰。兄アンドリューが挨拶に出向くよりも先に、憧れのレジェンドから「君の弟とヤンキースで一緒だったよ」と声をかけてくれたという。「挨拶をしてもらって、今は打撃投手もしてくれる。今年は正直、想像を超える出来事の連続だよ」と、目を丸くするのも無理はないだろう。

 メジャー9年目、32歳のロマインが来季以降も現役を続けるためには、1試合1試合、1打席1打席、無駄にしていい瞬間はない。「もう少し何かできるんじゃないか」――。憧れのレジェンドの言葉を胸に、成長の歩みを続けていく。

(Full-Count編集部)

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